地球化学の分野で世界最大の国際学術会議「ゴールドシュミット会議」。1991年から毎年開催されています。地球化学は、太陽系と地球の形成期から現在までに起こった現象の解明、さらには未来予測まで行う学問で、隕石や岩石・鉱物、水圏・大気圏、人間活動と自然現象にともなう環境変化など、トピックは広範囲に渡ります。この名称は「地球化学の父」と言われるビクター・M・ゴールドシュミット(1888年-1947年)に因んでいます。
彼にはこんな逸話が残っています。彼は母親から「たとえ他人と意見が違うことがあっても、常に礼儀正しく本当のことを言いなさい」としつけられていました。そんな子供の頃、ある学校に転校して数日後のことです。大柄で黒いひげを貯えた恐ろしげな校長がビクターに「新しい学校はどうかね?君といい友達になれるといいねぇ。もう私のことを好きになったのではないかね?」と尋ねました。するとビクターは母の教えを守り、戸惑いつつもこう答えたそうです。
「べつに好きというわけではありません。ゲッケル先生」
さすが、歴史に名を刻む偉人です。子供時代からすでに揺るぎない何かを持っていたことが伺えますね。
さて、今年のゴールドシュミット会議はチェコ共和国のプラハで行われ、その際にこんな研究発表がありました。
EurekAlert! : Melting glaciers could trigger more explosive eruptions globally, finds research (氷河の融解は世界中で爆発的な噴火を引き起こす可能性があると研究で判明, 2025年7月7日)
温暖化によって世界各地で氷河の後退が起こっていますが、それによって氷河の下に存在する数百の休火山が活発化するかもしれない、という話です。この氷河融解と火山活動の関係性そのものは1970年代にはアイスランドの事例で知られていましたが、大陸火山における調査は今回が初めてです。
ウィスコンシン大学マジソン校などの研究者たちがチリのパタゴニアの氷河と火山活動の関係を調べ、氷河の重みと圧力が地下のマグマの性質をどう変容させるのかを追跡しました。氷河が溶けると、それまで氷河の重みに押さえつけられていた地殻が緩み、マグマの中のガスが膨張。こうして地下の圧力が高まることが火山の噴火につながることが分かりました。
これは気候変動に影響を与えるかもしれないと考えられています。短期的には噴火によって大気中に吐き出されたエアロゾルが寒冷化を引き起こす可能性があります。しかし、このような噴火が繰り返し起こると、今度は大気中に温室効果ガスが蓄積していき、長期的には温暖化を加速させる可能性があるということなんです。温暖化ー>氷河の融解が加速ー>噴火が増えるー>温暖化が加速、という全くよろしくない循環が危惧されています。
氷河の融解が火山活動に影響するなんて、考えたことなかったので、こんな風につながっていることに驚きました。
さて、オーストリアの山間部にある、小さいながらも持続可能性で大きな実績を残している村ランゲンエッグに関するウェビナーが開催されますのでご案内します。
名称: ウェビナー「エネルギー自立村・ランゲンエッグの持続可能な村づくり」
日時: 2025年7月23日(水)16:00~17:30
会場: オンライン
共催: SJSスイスー日本サステナビリティ交流会、特定非営利活動法人 気候ネットワーク
参加費: 無料
主な内容:下記HPより抜粋
今回のウェビナーの舞台であるランゲンエッグ村は、オーストリア西部の山間にある人口約1200人の小さな自治体。寒さの厳しい山間部にありながら、1990年代には「灯油ゼロ」を達成。2000年代にさらに本格化した同村のエネルギー自立への取り組みは、欧州全土から高い注目を集め各国より視察団が訪れています。
気候中立の実現や高齢者が暮らしやすいまちづくり、地域内資源の活用など、日本の持続可能な地域づくりにも参考になる実例が多数展開されています。
今回のウェビナーでは、ランゲンエッグ村の建築・エネルギー担当官として、25年以上前から住民や専門機関と共に村のエネルギー政策を牽引してきた村役場職員のマリオ・ヌスバウマーさんに、近年の取り組みについてお話を伺います。
講師:マリオ・ヌスバウマー氏 (ランゲンエッグ村 建築・エネルギー担当官)
案内人・逐次通訳:滝川薫(SJSスイスー日本サステナビリティ交流会 代表)
詳しくはこちらをご覧ください。
出典:
「現代地球化学の父:ゴールドシュミット(その1)」地質ニュース545号、34-44頁、2000年1月