海水の酸性化とサメの歯

古い角質を食べてくれるので皮膚病の治療やお肌の美容に使われるドクターフィッシュ。体験したことがあります。10cm程度の小さくて可愛い魚なのですが、何百匹も泳いでいる中に足を突っ込むのはちょっとドキドキしました。「実は今朝急に起こった突然変異で鋭い歯を持っていて、この群れがみんな噛みついてきたどうしよう?」などという妄想が脳裏をよぎったからです。子供の頃にピラニアの映像や映画「ジョーズ」なんかを観たせいかもしれません。実際のところドクターフィッシュに食いつかれてもくすぐったい程度なんですが、どうも最後まで気が落ち着きませんでした。

そんな私なので、「近いうちに、サメは噛みつき返すことができなくなるかもしれない」という記事の見出しに興味を引かれました。ほっとする気持ちが若干混じりつつも、いやいやほっとしている場合じゃないぞという気持ちです。

The Weather Channel: Soon, Sharks Might Not Be Able To Bite Back( 2025年8月30日)

最近の研究で、海が急速に酸性化しているため、サメの歯が劣化してしまう可能性が示唆されたそうです。サメは海洋生態系の中でも最上位に位置する捕食者なので、歯が劣化することで食餌効率が落ちたり栄養状態が悪化したら、サメだけでなく生態系全体のバランスにも影響を与える可能性があります。

大気中のCO2が増加しているため海水のph値が下がり続ける酸性化が進行していて、予測では現在の平均8.1から、2300年までに7.3までに低下するとされています。8月27日に公表されたハインリッヒ・ハイネ大学の研究では、水族館で飼育されているメジロザメから自然に抜け落ちた歯を回収して、現状に近いph値(8.19)と将来予測に近いph値(7.3)の二つに分けた水槽に投入し、8週間後に損傷や劣化の度合いを比較しました。その結果、酸性度の高い水槽に浸けられていた歯で著しい損傷が見られたそうです。

“Simulated ocean acidification affects shark tooth morphology”
(frontiers, 2025年8月27日)

ただ、これは抜け落ちてしまった歯です。生きたサメについている歯であれば修復作用もあるでしょうから、現実はちょっと事情が異なりそうです。また、サメの歯は常に入れ替わっています。種類によって差がありますが、6列から20列ほどの歯が並んでいて、ちょっと使っただけで簡単に抜けていきます。2~3日ごとに歯を交換していて、一生で20,000本以上使うとも言われています。子供の頃に歯磨きをサボっていたせいで虫歯を治療した跡がずっと残る私から見たら、なんとも羨ましい仕組みです。なので、酸性度の高い水中で歯自体が劣化することは分かりましたが、自然環境下で生きているサメに対してどれほどの影響があるのかについては分かっていません。

しかし、海水の酸性化がいろんなところに波及する可能性があるんだなという気づきは得られました。これからのさらなる研究に期待したいところですね。

いずれにしても、遊泳中はくれぐれもサメに注意。この点については、まだしばらく変わらなさそうです。

さて、大阪市立自然史博物館などの共催で生物多様性に関するシンポジウムが催されるのでご案内します。

名称: 国際シンポジウム 「大阪湾岸『いのち輝く』を未来へ 
    ~はじめよう!連携が生み出す豊かな生物多様性~」

日時: 2025年9月15日(月)13:00~16:30 
会場: 大阪市立自然史博物館/オンライン 
共催: 国際自然保護連合日本委員会、(公財)日本自然保護協会、(公財)日本野鳥の会、
    (公財)世界自然保護基金(WWF)ジャパン、(公社)大阪自然環境保全協会、
    日本野鳥の会大阪支部、大阪市立自然史博物館
参加費: 無料 

主な内容:下記HPより抜粋 

○ 開会挨拶 
夏原 由博(大阪自然環境保全協会会長)

○ 来賓挨拶 
マイケル・ブライス(在大阪英国総領事)
西村 学(環境省自然環境局 自然環境計画課課長)

○ 基調講演
「沿岸域のネイチャーポジティブとは」 
道家 哲平(IUCN-J会長)

○ 特別講演「世界の視点で大阪湾を考える」(通訳あり)
「 渡り性水鳥の危機的状況と大阪湾岸の重要性(仮訳)」
The critical situation of migratory waterbirds and the importance of Osaka Bay
ニコラ・クロックフォード(RSPB主任役員・シギチドリ研究員)

「 沿岸生息地再生に関する国際的な事例研究から大阪湾を考える(仮訳)」
The relevance International Case Studies in Coastal Habitat Restoration to Osaka Bay
ジェフ・キュー(RSPB湿地再興アドバイザー)

○ ディスカッション
「大阪湾岸の生物多様性を高めるために~「いのち輝く」を未来へ~」
ファシリテーター 佐久間 大輔(大阪市立自然史博物館)
登壇者(予定)
・行政(調整中)
・積水化学工業株式会社 ESG経営推進部環境経営グループ グループ長 三浦仁美
・日本野鳥の会大阪支部長 納家 仁
・講演講師:道家 哲平、ニコラ・クロックフォード、ジェフ・キュー

○ 閉会挨拶 葉山 政治(日本野鳥の会理事・IUCN-J副会長)

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