ネイチャーポジティブ 大赤字

仲の良い友人を一人思い浮かべてみて下さい。その人が「いやあ、ちょっと前に健康の大切さに目覚めてさぁ。近所のジムでちょいちょい汗を流してるんだよねぇ」と言い、通っているジムに毎月5,000円払っているとします。しかし、その一方で実は彼はヘビースモーカーで、毎晩のように深酒し、いつも睡眠不足で、食事は全て高脂肪・高塩分・低栄養な外食で済ませていて、こうしたものに総額15万円も支出していると知ったら、どうしますか?たとえ親友でも、いや親友だからこそ(なかば呆れながら)「おいおい何やってんの?しっかりしろよぉ」と言いたくなりますよね。

しかし、どうやら私たちの社会こそが、そんな友人のようになっているようです。

先月22日に国連環境計画(UNEP)が年次報告書「自然のための資金の現状」(State of Finance for Nature 2026)を公表しました。

State of Finance for Nature 2026
(国連環境計画 2026年1月22日)

一番重要な点はこの数字です。
・自然に負の影響を与える資金流出:年間 7.3兆ドル
・自然に根差した解決策(NbS, Nature-based Solution)への投資:年間 2200億ドル

その差は実に33倍。報告書の14-15ページにあるグラフを一目見て頂ければと思います。(しかしこのグラフ、棒の長さを定規で測ったら19倍くらいにしかなっていません。なぜか甘いグラフになっています)

各国政府が出している資金で自然破壊を助長しているものは「環境に有害な補助金」(EHS, Environmentally Harmful Subsidies)と呼ばれています。その額は年間約2.4兆ドルに達し、私たちの税金が自然の破壊を加速させている構図です。

その内訳のいくつかを挙げると、
・化石燃料: 1.13兆ドル(エネルギー危機の影響で高止まり)
・農業: 0.41兆ドル(過剰な化学肥料利用や土地転用を誘発)
・水: 0.40兆ドル(地下水の過剰抽出や非効率な利用を助長)

民間セクターからの資金で自然に負の影響を与えているものは年間約4.9兆ドル(2023年時点)。以下の4つのセクターに集中しています。

・公共事業(ユーティリティ): 1.58兆ドル
・産業(テクノロジー・ヘルスケア含む): 1.38兆ドル
・エネルギー: 0.79兆ドル
・原材料(素材・化学): 0.74兆ドル

簡単な数字で例えるなら、政府や民間企業が、自然を再生するために毎月5,000円使っている一方で、自然に負の影響を与える(すなわち自らの生存基盤を破壊する)活動に、その30倍の毎月15万円使っている計算になるということです。「何やってんの?」と言われても、何も言い返せません。

ネイチャーポジティブに移行するための提言をかいつまんで書くとこうなります。
・「有害な補助金」を持続可能な農業などに再配分
・炭素税等の財政措置で自然破壊を抑制する改革
などが不可欠。

また、民間資金については、
・TNFD等に基づくリスク開示の義務化
・公的資金によるリスク低減
・「債務と自然の交換」(DNS, Debt-for-Nature Swap)
(債務国が自然保護への投資を約束する代わりに債務を減免する仕組み)
・グリーンボンドの利用促進
・信頼性の高い炭素市場や生物多様性クレジット市場の構築
など、経済システム全体の転換を図ることが重要。

うーん、やるべきことが複雑で頭が痛くなりますが、33倍のギャップを跳ね返すのは容易ではありません。認識を改めてさらなる努力を継続するしかありませんよね。

さて、愛知県の主催でネイチャーポジティブ経営に関するセミナーが開催されるのでご案内します。

名称: 企業向け生物多様性セミナー 「今からはじめるネイチャーポジティブ経営 
    ~自然と共に生きる企業へ~」

日時: 2026年2月25日(水)13:30~17:30 
会場: TKP名古屋駅前カンファレンスセンター/オンライン 
主催: 愛知県
参加費: 無料 

主な内容:下記HPより抜粋 

○ 基調講演 第1部
「生物多様性保全からネイチャーポジティブ社会へ」
国立研究開発法人 森林研究・整備機構  理事長 中静透 氏

○ 基調講演 第2部
「生物多様性の国際動向とビジネスの最前線」
株式会社バイオーム 代表取締役CEO 藤木庄五郎 氏

○ 県内企業による実践紹介
「企業と自然の共生 ~ムサシ環境づくりの挑戦記~」
武蔵精密工業株式会社 サステナ&CG  広田哲也 氏・中島正晴 氏

○ 金融機関による講演
「企業がいまネイチャーポジティブに取り組むべき理由」
 株式会社三井住友銀行 社会価値創造企画部 環境社会グループ 
 グループ長 吉川聡一郎 氏

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