炭素捕集貯留(CCS)は実質ゼロの切り札とならない?

火力発電所から排出される二酸化炭素を大気に排出せずに捕集する。これは、大量に温室効果ガスを排出するスポット発生源への「実質ゼロ」対策です。先月のCOP26でも、この対策無しの火力発電所は認めないとされました。

ところで、この捕集した二酸化炭素を、どうするか。その答えとされるのが炭素捕集貯留(CCS)。典型的には、化石燃料を採掘した隙間に二酸化炭素を圧注するというアイデアです。

CCSを推進する業界では、スポット発生源からの捕集に限らず、大気から直接二酸化炭素を捕集するDAC(direct air capture)で得られる二酸化炭素も扱えるとしてDACそのものも推進しています。

しかし、採掘にも、バリューチェーンでも、そして消費段階でも、大量の二酸化炭素を排出している業界が、実質ゼロの救世主に名乗り出るという違和感は拭えません。何しろ、長い間、温暖化そのもの、そして温暖化の原因が温室効果ガスであることを、なりふり構わず否定し続けていた業界です。その辺の疑問を整理してくれる記事を御紹介します。

CCSが実質ゼロの切り札とならない決定的理由の第一は、これまでの実績です。現在、商業ベースで稼働しているCCS付帯発電所は世界でカナダの一か所だけだそうです。

しかも、ここで捕集された二酸化炭素は、石油の採掘を増やす石油増進回収(EOR: Enhanced Oil Recovery)に使われています。これでは、却って温暖化を促進し、しかも化石燃料業界が更に儲かるだけという始末です。なぜなら、EORに使われた二酸化炭素は4倍ほどに増えて大気に戻って来るという論文さえあるのですから。

日本は化石燃料のほとんどを海外からの輸入に頼っています。このことも併せて考えると、CCSを日本における二酸化炭素の最終隔離法とするのは愚策の極みです。

今回、御紹介した記事の後半部分では、炭素の隔離法として植物や湿地、土壌、そして農法改善など所謂「自然に基づく解決策」を提案しています。実は、これらも手放しで採用できる訳ではありません。課題は山積です。しかしそれだからこそ、日本そして地域ごとの特色を考慮して、限られた時間と資金・人材を、他の隔離可能性を広く検討することに集中させるべきです。