地球の気候をひっくり返す ティッピング・ポイント

子供の頃は誰しも、一つや二ついたずらをして叱られた経験があるかと思います。アメリカには「立ったまま寝ているウシを横から押して倒す」というなんともダイナミックというか、けしからんいたずらがあるそうです。これは「カウ・ティッピング」(cow tipping)と呼ばれていますが、このティッピングの”tip”とは、英語で「倒す」とか「ひっくり返す」という意味があります。

「ウシは眠っているから、押せば簡単に倒れるんだ」ということらしいのですが、実はこれは都市伝説でしかなく、実際にはウシは立ったまま熟睡することはないし、うたた寝していたとしても人が近づけば目覚めるし、しかも、人間一人の力でウシを横倒しにすることは不可能だそうです。

2005年にブリティッシュ・コロンビア大学の研究者がこれを物理的に計算。「体高1.45メートル、体重682kgの静止しているウシを、地面に対して23.4度で押す場合、1,360ニュートンの力が必要で、少なくとも大人二人が必要となる。しかし、気づいたウシが抵抗し踏ん張ることを考慮すると、5~6人が必要になる」という結論を導き、カウ・ティッピングは一人では無理だということを科学的に示しました。つまり、みんなジョークで言っているだけで、本当は誰もカウ・ティッピングなんかやったことはないんだ、ということが明らかになったわけです

ところが人類はいま、地球全体の気候をティッピング、つまりひっくり返してしまいそうです。このまま地球の気温が上昇し続けると、ある時点(ポイント)で気候システムに後戻りできないような急激な変化が起きてしまう。このような変化が起こる転換点のことを「ティッピング・ポイント」と呼んでいます。こちらは世界中でさまざまな研究が行われており、科学的な理解も深まっています。

東京大学名誉教授でCEN名誉会長の山本良一先生は2008年の著書でティッピング・ポイントについて詳しく紹介されていますが、この度、その後のティッピング・ポイントに関する現在の研究を俯瞰し、気候政策上の意義について触れられた寄稿記事を執筆されましたので、ご紹介します。

環境・CSR情報サイト「ヴェイン」オンライン 2022年11月9日掲載
「気候非常事態 気候がティッピング・ポイント(転換点)を超えた、今こそカーボンニュートラルのアクションプランを」