パキッと割れた南極の氷床

「ハワイは1年に8センチずつ日本に近づいている…」とか「世界の年平均気温が100年あたりで0.76度の割合で上昇…」とか。そんな話を聞いていると、地球環境の変化は、長い時間をかけてゆっくりと起きているんだなぁ、と思ってしまいます。しかし、この記事を見たら、頭から氷水をぶっかけられたように目が覚めました。

ワシントン大学:80 mph speed record for glacier fracture helps reveal the physics of ice sheet collapse
(氷河の裂開速度 時速80マイルの記録は、氷床崩壊の物理的性質を明らかにするのに役立つ)

今年2月28日の記事で、最近公表された研究成果に触れています。2012年5月に南極西部のパインアイランド氷河に10.53kmの亀裂が走ったのですが、それがたったの5分程度で形成されたことが分かったのです。

仮に、端から端まで走るように亀裂ができていったとしたら、その速さは時速120km以上になる計算です。高速道路でビュンビュン飛ばしていく車の速さです。「ゆっくり」どころか、まさにガラスが割れるようにパキッと割れる感じです。その場にいたら逃げようがありませんよね。

ところで、こんな短時間に亀裂ができたことがどうして分かったのか。この地域の上空を飛ぶ人工衛星が氷河を撮影していますが、同じ場所を通過するは3日に1度だけ。5月8日には無かった亀裂が、5月11日には映っていたので、この間に亀裂ができたことは分かったのですが、衛星画像から分かるのはここまで。速さまでは分かりません。

しかし、この周辺に設置されていた地震計に、この亀裂が起こった時の振動が記録されていたのです。5月9日の午後6時過ぎ、強い振動が始まってから収まるまでがだいたい5分でした。これで分かったわけです。

氷床が崩壊するメカニズムについてはまだ完全に解明されておらず、今後の崩壊速度などは予測できないそうですが、今回の発見によってまた一つ理解が深まりましたね。

さて、地球環境は変化し続けていますが、私たちの社会はそれに適応できているのでしょうか。国連環境計画がまとめた「適応ギャップ報告書2024」についての解説ウェビナーが開催されますので、ご案内します。

名称: 「IGES日本語で読むシリーズ」解説ウェビナー 第5回
    「適応ギャップ報告書2023(エグゼクティブ・サマリー):資金不足。準備不足。気候変動適応に関する不十分な投資と計画が世界を危険にさらす(日本語翻訳版)」

日時: 2024年4月24日(水)12:15~13:00 
会場: オンライン 
主催: 地球環境戦略研究機関(IGES)
参加費: 無料 

主な内容:下記HPより抜粋 

世界の環境関連の重要文書を翻訳に携わった研究員が解説する「IGES日本語で読むシリーズ」解説ウェビナーの第5回では、国連環境計画(UNEP)の適応ギャップ報告書2023を取り上げます。

本報告書は、世界中で気候のリスクと影響が加速しているにもかかわらず、適応資金のギャップ(不足額)が拡大していることを示しています。また、世界の6カ国に1カ国は、いまだに国レベルでの適応策の 計画手段を有しておらず、残存するギャップを埋めるためには、さらに多くの行動が必要だと、警鐘を鳴らしています。

ウェビナーでは報告書の解説に続き、そこから得られた日本社会への示唆も共有します。質疑応答の時間も設けておりますので、ぜひご参加ください。

詳しくはこちらをご覧ください。

このウェビナーで解説される「適応ギャップ報告書2023」の日本語翻訳版はIGESのサイトからダウンロードできます。