行きつけの寿司屋で「漁師がサンゴらしきものを発見した」という噂を耳にしたことが、新発見のきっかけになりました。調査を主導したのは、立教大学環境学部教授でサンゴの生態を研究している大久保奈弥(おおくぼ なみ)教授です。
神奈川県・佐島漁港で南方系テーブル状サンゴが水揚げ
-日本国内における公的な最北限の分布記録-(立教大学、2025年12月23日)
大久保教授のサイトには、面白いエピソードが書かれています。高校時代は受験システムに疑問を感じてほとんど受験勉強もせず、1年浪人した後「受験勉強を一斉にするのは反対」という小論文を書いて立教大学を受験。その論文で合格したのだそうです。教授は今でも「立教大学に足を向けて寝られない」と深く感謝していて、現在は研究と教育を通じて母校に「御奉公」されています。
そんな教授が確かめたのは、去年7月24日に神奈川県横須賀市の佐島漁港で水揚げされたサンゴ。確認したところ、台湾や沖縄などに生息する南方系ミドリイシ属のサンゴだと判明しました。この発見は、科学的に非常に大きな意味を持っています。
まず、「国内の生息地の北限」を約30キロメートル更新したという点です。これまで、この種類のサンゴは太平洋側では千葉県の館山市、日本海側では長崎県の対馬が北限とされてきました。しかし、佐島(相模湾)で発見されたことで、南方系のサンゴが温暖化の影響などでさらに北へと分布を広げている実態が明らかになりました。この海域の環境が大きく変化したことが伺えます。
もうひとつは、このサンゴの「強さ」です。本来、暖かい海に住むサンゴは、冬の海水温が低い場所では生きられません。しかし、今回見つかったサンゴは、冬場には13.4度まで下がる相模湾の海で、少なくとも10年から30年もの間、冬を越して生き抜いてきたと推定されています。通常なら(栄養をくれる藻類を失って白くなり、死んでしまう)「白化」が起きるような厳しい環境でも、健康な状態で成長していたのです。
大久保教授は今後、これらの「ストレスに強いサンゴ」のメカニズムを解明し、環境変化にどう適応しているのかを詳しく探っていく予定です。寿司屋で掴んだのは、ちょっと小耳に挟んだ世間話だったのかもしれませんが、これを極上のネタに変えたのは、教授のサンゴに対する情熱と探究心だったのでしょうね。
さて、日本学術会議の主催で、海洋生物と気候変動に関するシンポジウムが開催されるのでご案内します。
名称: 公開シンポジウム「海洋生物と気候変動:解決と適応」
日時: 2026年3月8日(日)13:00~16:00
会場: オンライン
主催: 基礎生物学委員会・統合生物学委員会合同海洋生物学分科会
参加費: 無料
主な内容:下記HPより抜粋
○ 開会挨拶・開催趣旨説明
原田 尚美(日本学術会議連携会員(海洋生物学分科会委員長)/東京大学大気海洋研究所教授)
○ 基調講演
「海洋再生プロジェクトと漁業コミュニティの連携」
伊藤 慶子(株式会社 WMI 代表)
「海から拓く、日本経済の未来」
高倉 葉太(株式会社イノカ代表)
「ブルーカーボン貯留と大気 CO2 除去の統合的理解」
渡辺 謙太(国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所港湾空港技術研究所主任研究官)
○ パネルディスカッション
「持続可能な海洋利用のための適応策」
パネリスト:基調講演者
モデレータ:堀 正和(日本学術会議連携会員/国立研究開発法人水産研究・教育機構水産資源研究所)
質疑応答
○ 閉会挨拶
三枝 信子(日本学術会議副会長(第三部会員)/国立研究開発法人国立環境研究所理事)
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