海洋プラスチックが気候変動を加速

「ポンプ」と聞いて何を思い浮かべるでしょうか。ビールのハンドポンプとか井戸用給水ポンプとかお風呂から洗濯機に水を移すポンプとかいろいろありますが、やはり大事なのは「生物学的炭素ポンプ」(biological carbon pump)というポンプです。短く「生物ポンプ」(biological pump)とも言いますが、海が二酸化炭素を吸収・隔離する重要なメカニズムの一つです。

海面表層の植物プランクトンが光合成を行う時、海面に溶け込んだ二酸化炭素を有機炭素として体内に固定します。その後、死骸や糞便などの形で様々な経路を通じて深層へと輸送・貯蔵されていく過程を指します。小さなプランクトンの単なる日常生活なのですが、このおかげで炭素が長期間大気から隔離され、地球の気候を穏やかに保つ上で極めて重要な役割を果たしています。

2024年12月に発表された海洋研究開発機構などの研究によると、海洋全体での炭素の取り込み量は年間74億トン炭素と評価されています。

海中の“酸素の動き”から“炭素の動き”を解き明かす
―生物による海洋二酸化炭素吸収量の新たな評価―
(海洋研究開発機構、2024年12月16日)

この研究以前の推定値は年間130億トン炭素とされていたので、ガクンと4割以上減ることになります。うーん、推定値って、怖いですね。

そして、どうやら海洋を汚染しているマイクロプラスチックの存在は、この生物ポンプの機能をさらに低下させているようだということが分かってきました。

From pollution to ocean warming: The climate impacts of marine microplastics(汚染から海洋温暖化まで:海洋マイクロプラスチックの気候への影響)(ScienceDirect, 2026年2月)

先月発表された論文によると、微小なプラスチック粒子であるマイクロプラスチック(MPs)は、生物学的炭素ポンプの機能を物理的・化学的に阻害し、地球本来の気候調節メカニズムを根底から弱体化させる要因となっているそうです。

第一に、植物プランクトンへの影響。
これらは世界の酸素の約80%を生成し、光合成を通じて地球全体の炭素固定の半分以上を担う、気候調節の主役です。しかし、海面に浮遊する大量のMPsは、海中への光の透過を妨げるため、植物プランクトンの成長や光合成効率を低下させます。

第二に、動物プランクトンの活動の阻害。
クラゲやオキアミなどの動物プランクトンは、MPsを餌と誤認して摂取します。これにより、本来の餌である植物プランクトンの摂取量が減るだけでなく、健康状態や繁殖力も損なわれます。通常、プランクトンの死骸や糞便は「マリンスノー」として深海に沈降することで炭素を長期間隔離しますが、MPsはこの沈降プロセスを妨げます。特にオキアミの糞便ペレットにMPsが混入すると分解が早まり、海洋の炭素隔離能力が最大27%も失われる可能性があると報告されています。4分の1以上が失われるとは、なかなか大きなインパクトです。

第三に、化学的な悪循環と物理的特性の変化。
MPsは環境中で劣化・分解される過程で、それ自体が二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスを放出します。また、プラスチックから出てくる化学物質は海水のpHを低下させ、海洋酸性化を促進するため、炭酸カルシウムの骨格を持つ海洋生物の生存を脅かします。

さらに、(まだあるのか!と思ってしまいますが)海面に漂う暗色のMPsは太陽エネルギーを吸収しやすく、海面のアルベド(反射率)を変化させて局所的な水温上昇を引き起こす可能性も指摘されています。

マングローブなどの「ブルーカーボン生態系」においても、蓄積したプラスチックが炭素隔離能力を減退させており、これらの要因が重なることで地球の気候防御策が弱まり、温暖化が加速するリスクが高まっています。

論文の著者は、海洋プラスチックの問題と気候変動は切り離せない課題として取り組むべきだと提唱しています。気候変動と海洋プラスチックがこれほどまでに繋がっているとは…。海洋プラスチック問題の解決がいかに重要か、また認識を新たにしました。

さて、国文学研究資料館と茨城大学の主催で「歴史資料・古典籍を活用した減災・気候変動研究」というシンポジウムが開催されるのでご案内します。

名称: 国文研・茨城大学地球・地球環境共創機構(GLEC)共同シンポジウム 「歴史資料・古典籍を活用した減災・気候変動研究」
日時: 2026年3月17日(火)14:00~16:00 
会場: 国文学研究資料館(立川市)/オンライン 
共催: 大学共同利用機関法人人間文化研究機構 国文学研究資料館、
    茨城大学地球・地域環境共創機構(GLEC)
参加費: 無料 

主な内容:下記HPより抜粋 

茨城大学地球・地域環境共創機構(GLEC)は、国文学研究資料館と「歴史資料・古典籍を活用した減災・気候変動研究」というテーマで4年間(2024-27年度)の研究プロジェクトを実施中です。

大規模自然災害や気候変動に対して、古典籍・古記録・古文書等から歴史的な災害対応、適応の様相を明らかにし、将来への減災・気候変動対応に向けた文理融合型研究を目指します。あわせて、この分野を推進するためのネットワーク形成と人材育成を推進します。

本シンポジウムでは、プロジェクト関係者から数件の研究報告を行います。皆様のご参加をお待ち申し上げます。

○ 開会

○ 研究報告
「歴史史料から復元した近世以降の利根川中流域および渡良瀬川下流域における洪水氾濫特性の地形学的検討」
・田口陽菜(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース四年)
・小荒井衛(茨城大学基礎自然科学野教授)
・米田夕夏(茨城大学理学部卒業生)

「1857年頃の沖縄の干ばつの実態の解析 -フランス人宣教師フェレ神父の気象観測記録を活用して-」
・小西次郎(茨城大学大学院理工学研究科博士後期課程)
・野澤恵(茨城大学基礎自然科学野教授)

「近世年貢割付状と災害 -原発事故被災地域の福島県富岡町下郡山区有文書を事例に」
西村慎太郎(人間文化研究機構国文学研究資料館研究部教授)

「気候変動適応・緩和の過去・現在・未来 ―茨城県水戸市での Future Designワークショップの事例から」
田村誠(茨城大学地球・地域環境共創機構教授)

○ 閉会

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