「数ミリ秒」の重み

人間活動が地球の自転軸まで動かしてしまっていることが分かってから2年。2026年3月12日、地球の自転に関してさらに深く分かってきました。

ウィーン大学のモスタファ・キアニ・シャヴァンディ博士とスイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETHチューリッヒ)のベネディクト・ソーヤ教授らの研究チームが、「Climate-induced length of day variations since the Late Pliocene(鮮新世後期以降の気候誘発による1日の長さの変化)」という論文を発表しました。

Climate change slows Earth’s spin: Day lengthening unprecedented in million years(気候変動が地球の自転を遅くする:数百万年間に前例のない1日の長さの増加)(ETHチューリッヒ、2026年3月12日)

この研究のすごさは、AI(人工知能)を駆使した最新の分析手法「物理情報深層学習(PIDM)」を用いて、地球の自転の歴史をなんと360万年前まで遡って再現した点にあります。研究チームは、海底に堆積した「有孔虫(ゆうこうちゅう)」という微生物の化石を調査しました。この化石の化学成分から過去の海面水位の変動を割り出し、そこから地球の回転速度を数学的に導き出したのです。

その結果、現在起きている1日の長さの変化(100年あたり1.33ミリ秒の増加)は、過去360万年間で一度もなかったほどの異常なスピードであることが証明されました。過去の氷河期などにも自転速度の変化はありましたが、今ほど地球が「急ブレーキ」をかけたことはないということです。

さらに、ある予測が示されています。私たちがこのまま温室効果ガスを排出し続けた場合(高排出シナリオ)、2100年までには気候変動による自転の減速ペースは100年あたり約2.62ミリ秒に達する可能性があります。これは、数十億年にわたって地球の回転を支配してきた「月の引力」による影響(約2.4ミリ秒)を追い越してしまうことを意味します。人類の活動が、月の力を上回る影響を地球に与えようとしている…。ちょっとSFみたいな話です。いやもう、人類って、すごいというかなんというか…。

でもちょっと待ってください。こんなのたった数ミリ秒の話ですよね。まばたきよりも短い時間です。どうってことのない話じゃないの?と思ったのですが、そうではないようです。実は人間社会はあまりにも精密になってしまっていて、この数ミリ秒のズレが想像以上に大きな影響をもたらすのでした。

最も身近な例がGPS(衛星測位システム)です。GPS衛星は「今、地球のどの地点の真上にいるか」を極めて正確な時間に基づいて計算しています。もし地球の回転が予想より遅れ、時計との間にわずかなズレが生じると、カーナビやスマートフォンの地図で表示される現在地が何百メートルもズレてしまうことになります。これは、将来の自動運転車やドローンの運行といった精密なナビゲーションにおいて、重大な事故を招きかねません。

また、インターネットの通信や、金融システムも、世界中で完全に同期された正確な時刻が前提となっています。地球の自転に合わせて時計を調整する「うるう秒」の導入は、コンピュータシステムにとって大きな負担であり、特に自転が加速した際に検討される「負のうるう秒(1秒を削る操作)」は一度も実施されたことがないため、大規模なシステム障害を引き起こすリスクが懸念されています。

わずか100年ほどの間に私たちが排出した温室効果ガスが、数百万年という地球の長いリズムを乱し、私たちの暮らしの基盤である「時間」そのものを揺るがしている。こう言っても言い過ぎではないようです…。

さて、日本学術会議の主催で「気候変動を食い止める農業生産技術」というテーマで公開シンポジウムが開催されますのでご案内します。

名称: 公開シンポジウム「気候変動を食い止める農業生産技術 ―今、我々に何ができるかー」
日時: 2026年3月28日(土)14:30~17:00 
会場: 高崎健康福祉大学(高崎市)/オンライン 
主催: 日本学術会議農学委員会農学分科会
参加費: 無料 

主な内容:下記HPより抜粋 

総合司会:彦坂 晶子(日本学術会議連携会員/千葉大学大学院園芸学研究院教授)
「シンポジウムの開催にあたって」(主催者代表挨拶)
土井 元章(日本学術会議第二部会員/京都大学名誉教授)

『農業生産の持続可能性の課題と気候変動』
本間 香貴(日本学術会議連携会員/東北大学大学院農学研究科教授)

『水田における窒素および炭素動態とその制御-カバークロップや不耕起を
 利用したメタン排出量削減-』
浅木 直美(愛媛大学大学院農学研究科准教授)

『環境変化と土壌・根圏微生物相互作用』
竹下 典男(筑波大学生命環境系准教授)

『気候変動に伴う野菜生産の作型適応』
山崎 篤(高崎健康福祉大学農学部教授)

『農業生産におけるカーボンクレジット』
西田 智子(日本学術会議連携会員/国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構理事)

シンポジウム総括
下野 裕之(日本学術会議連携会員/岩手大学農学部教授)

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