経済協力開発機構(OECD)が干ばつに関する報告書を公表しました。
”Global Drought Outlook” -Trends, Impacts and Policies to Adapt to a Drier World-
(世界干ばつ見通しー乾燥した世界への適応に向けた傾向、影響、政策ー)(OECD、2025年6月17日)
143ページの英語の報告書で、しかも目次に並んでいるのは滅入ってしまいそうな言葉ばかりなので、楽しく読めるものではありませんが、せっかくなので重要な数字(Key figures)とされている数字を三つだけ取り上げます。
・”40%” 世界の陸地の40%が、より深刻に頻発に起こる干ばつに直面している。
・”3%~7.5%” 干ばつによる経済的損失が年間3%~7.5%増加している。
・”35%” 2035年までに、干ばつによる経済的損失は少なくとも35%増加する。
やっぱり喜べる数字はひとつもないよなぁ、なんて思っていた時に、ふと乾燥地帯の灌漑について思い出したことがありました。
イランの世界遺産になっている「ペルシア式カナート」という灌漑システムがあります。山麓に井戸を掘って、なだらかな勾配をつけた横穴を掘り、離れた地域に水を供給するシステムです。通気や作業のために縦穴を開けるので、空から見ると噴火口のような穴が連なって見えます。
UNESCO: The Persian Qanat (ユネスコ:ペルシア式カナート)
イランでは11のカナートシステムが世界遺産に登録されていて、最も古いものが紀元前3-4世紀頃、最も深い井戸は200m、最も長い水路はなんと80kmもあります。全て手作業で掘り進めたことを思うと、土木技術はもちろんですが、その情熱と忍耐と(もはや死語かもしれませんが)ド根性に感服します。しかも現在も水源としてしっかり機能しているというので驚きます。
このカナートは長い歴史の中で中国や中東各地、北アフリカ、ヨーロッパ、アメリカ大陸へと伝播していったと言われています。世界には約50,000ものカナートがあり、2010年代半ばの時点でその半数ほどが稼働しているそうです。
イランのカナートについて、世界遺産の登録基準に関するコメントには、次のようにあります。”ペルシャのカナートシステムは、乾燥地帯および半乾燥地帯での人類の居住の歴史において重要な段階を示す、技術的調和の傑出した例である。複雑な計算と卓越した建築的品質に基づき、水は重力のみによって長距離にわたって収集・輸送され、これらの輸送システムは数世紀、時には数千年にわたって維持された。カナートシステムは居住と農業を可能にしただけでなく、カナート自体だけでなく、貯水池、製粉所、灌漑システム、庭園などの付随構造物を含む、砂漠特有の建築様式と景観の創造にも影響を与えた”
ひとことで「地下水路」と言っても、その目的である水の調達だけでなく、それに繋がる様々な要素が関わっているんですね。
古代の人々の偉業を思うと、これからの温暖化や乾燥化に向けてまだまだ人類ができることはありそうだ、と思えてきますね。
さて、公益財団法人日本環境協会の主催でドイツのカーボンニュートラルに関するセミナーが開催されるのでご案内します。
名称: オンラインセミナー「サステナブルな世界に向けて~ドイツのカーボンニュートラル」
日時: 2025年7月1日(火)15:00~16:30
会場: オンライン
主催: 公益財団法人日本環境協会 エコマーク事務局
参加費: 無料
主な内容:下記HPより抜粋
講演「サステナブルな世界に向けて~ドイツのカーボンニュートラル」
ドイツ・欧州環境規制コンサルタント 望月 浩二 氏
サステナビリティを担保するいくつかの要素の中では、地球温暖化対策としてのカーボンニュートラルが極めて重要である。これを2050年までに実現すべく取り組んでいるドイツの方策を報告する。その方策の中でリサイクルのもつ重要な意味についても述べる。また全体のイントロとしてドイツ国民の環境意識についての調査結果を紹介する。
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