戦略を立てて行動しなさい、なんてよく聞くけど実際なかなか難しいよ、もっと賢くならないとできないわぁ、なんて思うことがあります。そんな中、”ミジンコの戦略”のことを知り、初めは「ミジンコごときが戦略?笑止な」と思ったのですが、この記事を読み終わる頃にはもはや孫子の兵法「戦うべきと戦うべからざるとを知る者は勝つ」を身につけているミジンコたちに対する憧憬を抱いていました。
「負けて勝つ」ミジンコの長期共存戦略(2024年4月23日、東北大学)
山形市から西へ15kmほど、県民の森に点在する山地湖のひとつに畑谷大沼があります。毎年春になると二つのミジンコ集団が現れます。見た目は同じミジンコだけど、実は“強い集団”と“弱い集団”がハッキリしているそうです。餌の取り合いになると、弱い方はいつも押され気味なのに、完全に消滅することはなく、9 年間ずっとこの二つが同じ湖で共存してきました。
その理由が、なかなか面白いんです。弱い方は、相手が増えてきた気配を、いわば「(空気ならぬ)水を読んで」感じ取り、「あ、これ以上ここで戦っても負けるな」と悟り、すぐに“休眠卵”を作り始めるんです。休眠卵は植物の種子のように殻に包まれていて、すぐには孵化しません。湖底の土壌の中でじっと息を潜め、冬を越し、また環境が良くなると孵化してミジンコとして戻ってきます。(通常、環境の良い時にはすぐに孵化する”急発卵”を産むので、個体群は早く増えていきます)
つまり彼らは目先の戦いからはさっと撤退して、未来に向けてしっかり布石を打っているというわけです。弱い方は、強い方を飼育した”水”に触れると普段よりたくさん休眠卵をつくることが実験で確認されています。
一方の強い方はというと、余裕をかましているせいか分かりませんが、休眠卵作りのタイミングが遅れがちです。夏になるとミジンコを餌にする魚が活発になるので、休眠卵を残す前に食べられてしまうリスクが大きくなります。結局、弱い方は短期的には負け続けているかもしれませんが、長期的には有利になる可能性があるんです。
まさに「戦うべきと戦うべからざるとを知る者は勝つ」。“今は戦わない”という選択をすることで、むしろ生き残っている。無理に正面からぶつからず、引くときは引く。そのかわり、次のチャンスに備えて準備を怠らない。うーん、ミジンコのくせに驚くほど合理的な戦略。面白いですね。
ところで、弱いミジンコが「水を読む」仕組みは明らかではありませんが、これもまた今後ぜひ解明してもらいたいですね。
ミジンコにも生存戦略がある。脳はこっちの方が大きいんだから、負けていられませんね。私たち人間も、地球環境の変化に適切に対応し、戦略を持ってこの複雑な世界を生き抜いて行きたいものです。
さて、日本水環境学会と大気環境学会の共催で環境研究に関するセミナーが開催されますので、ご案内します。
名称: 水・大気環境連携セミナー2025 〜データで切り拓く環境研究の未来〜
日時: 2025年12月19日(金)13:30〜16:30
会場: 自動車会館(千代田区)/オンライン
主催: 日本水環境学会、大気環境学会
参加費: 無料
主な内容:下記HPより抜粋
○ 開会挨拶
中井里史(横浜国立大学)
○ 特別講演
「環境監視・調査におけるデータの「 」について」
吉本隆寿(環境省)
○ 講 演
「国環研と地環研との㈼型共同研究のこれまでとこれから」
菅田誠治(国立環境研究所)
「リン酸パッシブサンプラーの開発と湖沼底泥からのリン溶出速度の推定」
羽深昭(北海道大学)
「ローコストセンサーを用いた大気環境計測の基礎と応用」
中山智喜(長崎大学)
「下水情報の徹底活用による”街のヘルスケア”を実現する次世代環境モニタリング技術」
佐野大輔(東北大学)
「機械学習と環境データを用いた大気質予測:手法と適用事例」
荒木真(大阪大学)
「社会経済シナリオの統計的ダウンスケールと災害リスク評価への応用」
村上大輔 (統計数理研究所)
○ 総合討論>
今村隆史(東京都環境科学研究所)
○ 閉会挨拶>
今井章雄 (埼玉県環境科学センター)
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