海洋がファーストフード化する

「炭水化物抜きダイエット」を検索すると、その効果やデメリットをめぐって様々な情報が溢れています。良し悪しはともかくとして、人々の大きな関心事であることは間違いありません。そんな中、「おいおい、ホントかよ」という記事に出くわしました。

Climate change may produce “fast-food” phytoplankton (気候変動は「ファストフード」のような植物プランクトンを生み出す可能性がある)(2026年3月31日、MIT News)

MIT(マサチューセッツ工科大学)の研究チームは、気候変動による海水温の上昇が、海洋生態系の基礎である植物プランクトンの栄養組成を劇的に変化させるという調査結果を発表しました。

この研究によると、今後1世紀の間に海水温が上昇するにつれ、極域の植物プランクトンの組成はタンパク質が豊富だった状態から炭水化物が豊富な状態へとシフトし、いわば「海洋のファストフード化」が進行する可能性があると指摘されています。

ファーストフードを避けている人にしてみると、「え、ちょっと…私の日々の努力は一体どうなるの?」と感じるかもしれません。でも、どんな影響があるのかまでははっきり分かっていませんので、まあ落ち着きましょう。

植物プランクトンは微細な藻類であり、ウミウシ、小型の魚、クラゲなどの主要な食物源です。これらはさらに大きな海洋生物の餌となり、最終的には人間を含む海洋の最終捕食者へとつながります。この論文の筆頭著者シュロミット・シャロニ氏は、予測に基づけば「今世紀末までに海洋表面の栄養組成は現在とは大きく異なるものになるだろう」と述べています。

植物プランクトンは陸上の植物と同様に光合成を行い、日光、大気中の二酸化炭素、そして深海から湧き上がる窒素や鉄などの栄養素に依存して成長します。

研究チームは、ラボ実験データをもとに、水温や光、栄養条件の変化がプランクトンのマクロ分子バランスをどのように変えるかをシミュレートする定量的モデルを開発しました。これを海洋循環と力学のモデルと組み合わせることで、世界各地の海洋条件や将来の気候シナリオ下での組成変化を予測しました。

現在の条件では、平均的な植物プランクトン細胞の半分強がタンパク質で構成されています。特に極域のプランクトンは、海氷が日光を遮るため、弱い光を効率的に吸収するための「光収穫タンパク質」を多く作るよう適応しており、他の地域よりもタンパク質が豊富な傾向にあります。

しかし、2100年まで温室効果ガスの排出が続き、海面温度が3度上昇するシナリオをモデル化したところ、極域では海氷が大幅に減少し、プランクトンが日光を容易に得られるようになることが示されました。その結果、多くの光収穫タンパク質を保持する必要がなくなり、タンパク質レベルは最大30%減少し、相対的に炭水化物と脂質の割合が増加すると予測されています。

一方、亜熱帯の高緯度地域では、温暖化による海洋循環の鈍化で栄養供給が制限されるため、個体数が50%減少する一方で、日光と栄養を確保するために深い層での生存を強いられることになります。その過程で、極域とは対照的に、光合成タンパク質の利用を増やす必要があるため、組成はわずかにタンパク質が豊富なものへと変化します。

「なんだそうか、驚いて損したわ…」と思ってしまいますが、しかし、地球全体でバランスを見ると、植物プランクトンの平均組成はより炭水化物中心で栄養価の低い方向へシフトすることになります。研究チームは過去数十年の観測データも分析しており、実際に北極や南極のフィールドサンプルにおいて、すでにタンパク質の減少と炭水化物・脂質の増加という「気候変動のサイン」が現実世界に現れていることを確認しました。

こうした変化が海洋の食物連鎖全体にどのような影響を与えるかは、現時点では完全には解明されていません。タンパク質の減少が一部の生物にストレスを与える可能性がある一方で、冬を越すために脂質を蓄える必要がある生物には有利に働く可能性もあるとされています。

海洋生態系の基盤におけるこの変化がどのように食物連鎖を伝わっていくかは、まだまだこれからの研究ですね。

さて、地球環境戦略研究機関(IGES)の主催でエネルギー安全保障に関する講演会が開催されるのでご案内します。

名称: 「エネルギー安全保障時代の経営戦略 ~ 再エネはリスクか、それとも競争力か~」
日時: 2026年4月13日(月)15:00~17:00 
会場: 鉄鋼ビルディング(千代田区)/オンライン 
主催: 地球環境戦略研究機関(IGES)
参加費: 無料 

主な内容:下記HPより抜粋 

○ 開会挨拶 小野 洋 IGES 所長

○ 講演 
「日本のエネルギー安全保障における再エネ政策(仮題)」
日暮 正毅 経済産業省資源エネルギー庁 省エネルギー・新エネルギー部 新エネルギー課長

「気候変動と安全保障」
亀山 康子 東京大学大学院 新領域創成科学研究科 教授

「エネルギー安全保障と再エネ:供給の論理と産業の要請」
大場 紀章 ポスト石油戦略研究所 代表

「エネルギー安全保障から考える1.5℃ロードマップ(仮題)」
田村 堅太郎 IGES リサーチディレクター

○ パネルディスカッション
モデレーター: 田村 堅太郎 IGES リサーチディレクター

詳しくはこちらをご覧ください。