海峡をふさいで救えるもの

平和のために「地中海につながる海峡をダムで堰き止めたらいいんじゃないか?」と考えた人がいました。第一次世界大戦を終えて、ヨーロッパが荒廃してしまい、アフリカ諸国がまだヨーロッパ列強の植民地だった頃の話ですが、ドイツの建築家ヘルマン・ゼルゲルは、ある時「地中海は、ジブラルタル海峡をふさいで大西洋からの潮流を止めたら”蒸発する海”である」と書かれている本を読み、「なるほど、あり得る話だよなぁ」と考えました。

そして、ヨーロッパ全体の復興と繁栄のためにこんなことを考えました。

・(地中海の西端)ジブラルタル海峡にダムを建設して地中海の海面を200メートル下げる。(北東部で地中海につながっている)黒海との間にもダムを設ける。
・シチリア島とチュニジアとの間にもダムを作って、東地中海の海面をさらに下げる。
・これらの巨大ダムで大規模な水力発電を行う。
・海面低下によって出現する広大な陸地を得るとともに、イタリアからチュニジア経由でアフリカ大陸を陸路でつなげる。植民をさらに推進し、ヨーロッパとアフリカの一体化を図る。
・コンゴ川にもダムを建設してチャド盆地を巨大貯水地にし、サハラ砂漠の緑化を行う。

ゼルゲルが「百年かかる事業になる」と考えたこの壮大な構想は「アトラントローパ」(Atlantropa)と呼ばれていました。ゼルゲルの死後にはほとんど取り上げられることもなくなりましたが、一時期かなり注目されたようです。

ゼルゲルの構想から100年が過ぎた今、「ベーリング海峡をダムで堰き止めたらいいんじゃないか?」という記事を見かけました。こちらは気候変動への対策です。

The effects of a constructed closure of the Bering Strait on AMOC tipping behavior(ベーリング海峡の人工的な閉鎖がAMOCの転換挙動に及ぼす影響)(サイエンス、2026年4月24日)

オランダのユトレヒト大学のソーンズ博士らが検討したのが「ベーリング海峡をダムで塞いで、太平洋から北極海に注ぎ込む塩分濃度の低い海水の流入を止めれば、AMOCの弱体化を防ぐことができる」というアイディアです。

気候変動によって北極圏の氷が溶けて海水の塩分濃度が下がり、AMOC(大西洋子午面循環/大西洋南北熱塩循環)が弱まり、やがて崩壊してしまうことが懸念されています。AMOCが崩壊すると米国東部の海面上昇やヨーロッパの急速な寒冷化、ヨーロッパやアフリカでの旱魃の増加などにつながるためです。

「ちょっと待った。ダムを作るって言っても、すごい大きさになるよね?そんなこと可能なの?」という疑問に対しては、あらかじめ答えが用意してありました。大雑把に言えば「技術的にはできる」と。ダムは三つに分けて作る。海峡の中ほどにある二つの島を経由して繋げる形をとり、その長さはそれぞれの区間で、
・38km:シベリアからビッグダイオミード島まで38km
・4km:ビッグダイオミード島からリトルダイオミード島まで
・38km:リトルダイオミード島からアラスカまで
となる。海峡の平均深度は50m。最大水深は59m。「世界最長の防潮堤」として知られる韓国のセマングム防潮堤は長さ33km、最大水深54mですから、できないことはないというわけです。

ただ、詳細な実現可能性についてはこの研究の範囲を超えるためなされておらず、あくまでも「そういう規模のダムの前例はあるよ」というだけですから、このベーリング海峡を取り囲む自然環境の下で実際に建設可能かということまでは分かりません。

ベーリング海峡は今でこそ海峡ですが、最終氷期には南北最大1600kmにも及ぶ陸地(ベーリング地峡)で繋がっていたことがありますから、地球の歴史から見たらどうということのない変化とも言えます。しかし現代の人類社会は、ベーリング海峡が北極海につながっている地球環境下で作り上げられてきたものなので、それが変化した時の環境や生態系への長期的影響への懸念や政治的に可能か否かという議論が噴出しそうなので、その実現性は「アトラントローパ」くらい低いかもしれませんね。

しかも、この研究では、AMOCがもう崩壊寸前である場合は、効果がないどころか、”逆にAMOCの不安定化を促進してしまうだろう”とも言っています。ますますやりにくいですよね…。

しかし、実はこの「気候変動対策としてベーリング海峡を閉鎖する」というアイディア自体は以前から他の研究者の間でも議論されているようなので、これからも話題になることがありそうです。

実現性とか意義とか事の良し悪しはともかくとして、こういう壮大な話を聞くのはいいものです。自分の日常生活で直面する様々な問題も、もっと大きなスケール感を持って解決策を考えてみよう、なんてある種の元気をもらえる感じがしますからね。

さて、おおさかATCグリーンエコプラザ実行委員会の主催で脱炭素経営のセミナーが開催されるのでご案内します。

名称: 関西・攻めの脱炭素経営で未来を拓くGXセミナー
日時: 2026年5月28日(木)14:00〜16:30 
会場: ATCグリーンエコプラザ(大阪市)/オンライン 
主催: おおさかATCグリーンエコプラザ実行委員会
参加費: 無料 

主な内容:下記HPより抜粋 

1.経営力向上につながる中小企業のGX推進
(近畿経済産業局カーボンニュートラル推進室)
2.SBT取得をして脱炭素経営への取組事例
現場起点(DX)による脱炭素ソリューション(GX) 〜ソリューション提案のケーススタディ〜
(株式会社マコト電気)
3.SBT認定取得やCO2可視化の重要性(OZCaF)       
4.  サーキュラーデザインプロジェクトについて(OZCaF)   
5.全体質疑・名刺交換会
6.おおさかATCグリーンエコプラザ展示場見学会

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