3月あたりには少し花粉症がひどくて困っていたものの、最近はすっかり良くなってホッとしていました。しかし先日、気候変動のせいで花粉が飛ぶ期間が長くなっていることを改めて示す報告を見かけてしまいました。
「ランセット」というイギリスの医学誌が公表した報告書です。
The 2026 Europe report of the Lancet Countdown on health and climate change: narrowing window for decisive health action(ランセット誌の「健康と気候変動に関するカウントダウン」2026年欧州報告書:決定的な健康対策のための猶予期間が狭まる)(The Lancet Public Health, 2026年4月21日)
アレルギー性の花粉を出す樹木のカバノキ、ハンノキ、オリーブの花粉の飛散時期と密度の変化を調べたところ、2015-2024年の期間は1991-2000年と比較して花粉の飛散が始まる時期が1-2週間早くなっています。
また、2024年の報告書との比較では、カバノキとハンノキでは東ヨーロッパ、イギリス南部、フランス北部、ドイツ北部においては花粉の飛散密度が15-20%増加していて、飛散期間も長くなっています。
オリーブについてはトルコと、スペイン南部にあるいくつかの孤立した地域において、花粉の密度が高くなっていることが分かりました。
こんなことばかり読んでいるとうんざりするので、少し反発したい気持ちがむくむく湧いてきます。「はいはい、人間にとっては大変だということは分かりましたよ。でもこれは、こうした樹木にとっては受粉できる期間が長くなるんだから、結果として樹木が増えて逆に良いことなのでは?」と思いました。
ところが、なかなかそう単純な話ではないようです。「フェノロジカルミスマッチ」と呼ばれる現象があります。毎年起こる季節の循環や変化に応じて動物や植物が行動や状態を変えることやそれを研究する学問分野のことをフェノロジー(生物季節、生物季節学)と言いますが、密接な関係を持つ生物のフェノロジーがズレてしまうことをフェノロジカルミスマッチと言います。
2019年に北海道大学が発表した研究では、北海道のエゾエンゴサクという春咲きの植物と、冬眠後にその花粉を媒介するマルハナバチの関係を調べました。これはフェノロジカルミスマッチのひとつの例です。
エゾエンゴサクの開花は雪解けの時期に規定されるため、雪解けが早いと開花も早まります。しかし、地中で冬眠するマルハナバチが目覚めるのは雪解けではなく、地温が6度に達すること。夏の夜に暑くて目が覚めてしまう、あの感じかどうかは分かりませんが、とにかく、マルハナバチは土の温度が6度にまで上がらないと活動を始めないそうです。
そして、この”雪解け”と”地温6度”のタイミングが合致しているうちは良いのですが、雪解けが異常に早く起こり、土の温度上昇がそれに追いついていない時には開花だけが先行してしまい、マルハナバチはまだスヤスヤ眠っているという状態がしばらく続きます。そんな年には受粉がうまくいかず、種子の生産量が低下することが分かりました。つまり、こんなことが続くとエゾエンゴサクとマルハナバチ共生関係が崩れてしまう…ということなんです。
報告書で挙げられたカバノキ、ハンノキ、オリーブについてそうしたフェノロジカルミスマッチがあるのかどうか分かりませんが、それにしても生物と気候の関係は奥が深いものだなと改めて思います。
さて、立教大学の主催で気候変動を哲学的に考えるイベントが開催されるのでご案内します。
名称: 学術知共創プログラムFuture Compass Dialogue 2026 気候変動の時代に、
私たちはどの方向に進むのか ―未来の羅針盤を得る哲学対話―
日時: 2026年5月6日(水)17:00~19:30
会場: 立教大学
主催・共催:学術知共創プログラム「身体性を通じた社会的分断の超克と多様性の実現」、
Climate Coaching Alliance Japan
参加費: 無料
主な内容:下記HPより抜粋
「風はいかなる方角からも吹く。どちらへ進むかは、いかに帆を張るかにかかっている。」
気候変動は人類が共に向き合うべき最大の課題。いま、大きな転換を告げる瑞祥なる
「合流時代」において、異なる視点を交差させ、私たちが進むべき方向を探究します。
第1部:宇宙・哲学・内面の3視点から、社会や人間のあり方を再考します。
第2部:対話を通じ、それぞれの「未来の羅針盤」を描き出します。
津田雄一(JAXA 宇宙科学研究所 副所長)
河野哲也(立教大学 文学部 教授)
ゴピ・パテル(ラージャヨガ瞑想講師 )
詳しくはこちらをご覧ください。
