‘うさんくさい’論文の熟読 画期的ツールに結実

たった一杯のバケツの水を調べるだけで、その水域に住んでいる魚の種類がわかってしまう技術を生み出した宮正樹氏のお話があります。

ミツカン 水の文化センター「水の風土記」水の文化 人ネットワーク
「たったバケツ一杯の水から、そこに棲む魚が明らかに!」

魚類や両生類などの大型生物の体内から出てきたDNAのことを「環境DNA」と呼びますが、それを宮氏が開発した「MiFish(マイフィッシュ)プライマー」というツールによるメタバーコーディング(同時並列多種検出法)という手法で分析すると、どんな魚がいるか正確に素早く判定できるということです。

一つの例として挙げられているのが、舞鶴湾。14日間の潜水調査で目視された魚は80種。しかし、たった1日の環境DNA調査で128種の魚が検出されたそうです。とてつもない効率性ですよね。

この技術は魚だけでなく、陸上生物にも応用できます。ゾウやオランウータンが住むボルネオの熱帯雨林では哺乳類用に改良した手法を使って調査を行っていますし、鳥類用の手法も開発しています。そのほかにもさまざまな用途に応用できるのだそうです。

こんなすごい手法ですが、この研究に取り組んだきっかけが面白いです。環境DNAについて、デンマークの研究者が書いた一本の論文です。宮氏は、最初は「なんだか怪しい、いんちきくさいと信用していなかった」のですが、じっくり読み直してみたら「私のもつ魚類に関するDNAの経験と知識を駆使すれば、もっとよいツールができるし、DNA検出のしくみそのものを高度化できる」と確信したのだそうです。

「うさんくさいなぁ」という第一印象だけで切り捨てていたら、このツールの開発には至らなかったかもしれません。「ちょっと待てよ、もう一度読み直してみるか…」という柔軟性が、新たな扉を開いたのかもしれませんね。

この宮正樹氏の講演がありますので、ご案内します。

名称: 第16回 早稲田大学ガバナンス&サステナビリティ研究所研究会
日時: 2024年4月11日19:00~20:30 
会場: 早稲田大学/オンライン 
主催: 早稲田大学 ガバナンス&サステナビリティ研究所
参加費: 無料 

主な内容:下記HPより抜粋 

講演「環境DNAを用いた生物多様性モニタリング法:持続可能な地球環境の利用に向けて」
宮 正樹 氏
千葉県立中央博物館 主任上席研究員・九州大学大学院客員教授

科学技術が急速に発展した今日においても、「どこにどんな生きものがいるのか?」というシンプルな問いに答えるのは容易でない。

水生生物である魚の場合には,魚を潜水観察したり漁具で採集したりなど、多大な労力と費用がかかるうえに長期間の調査が必要となり、種を特定するためには高度に専門的な知識や経験も欠かせない。

近年、魚が粘液や糞を通じて水中にDNAを放出していることが明らかになり、この水中を漂うさまざまな種類の魚のDNA(環境DNA)を分析することで、そこにどんな魚が棲んでいるのかわかる技術が開発された。

本講演では,環境DNAを用いた生物多様性調査法の概要と実際について最新の研究成果に基づき解説するとともに、この調査法が持続可能な地球環境を維持していくためにどのような貢献ができるのか論じる。

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