ビーバー ありのままで炭素削減

19世紀の終わり頃、アメリカのネブラスカ州を探検していた古生物学者アーウィン・バーバーが「形態は壮麗。対称性は完璧。そして理解を超えた構造」の化石を発見しました。それは地中に築かれた最大2メートルほどの高さがあるらせん状構造物でした。出土したのは2,000万年から2,300万年前の地層です。バーバーはこれをダイモネリクス(daimonelix, ギリシャ語で”悪魔のねじ”)と名付けました。巷ではその見た目から「悪魔のコルク抜き」(devil’s corkscrew)と呼ばれています。

発見後、これは一体何なのか、が議論になりました。バーバーは「植物の根の残骸だ」と考えましたが、別の学者たちが、「齧歯類の巣穴だろう」と主張しました。その説に対してバーバーは(少し勝手にニュアンスを加えると)皮肉混じりに「ほう、そうかい。もしそれが本当だとしたら、こんなに正確に複雑な形の巣穴を掘れるなんて、その生き物はとんでもない天才だったってことだよな!」と反論したそうです。

しかしその後の研究で、20世紀初頭にはこれらの構造物は当時草原や半砂漠地帯に生息していたビーバーの仲間パレオカスター(paleocastor)の巣穴だったことが分かりました。paleo(古代の)+castor(ビーバー属)ということで、つまり古代ビーバーなのですが、現代のビーバーよりも体の大きさはずっと小さかったそうです。

その現代のビーバーもやはり優れた能力を持っていることが知られています。樹木を齧り倒して川の水を堰き止めてダムを作り、そこに形成された池や沼地の中にドーム状の巣を作ります。その能力ゆえに「人間以外で唯一、周囲の環境を大規模に変えられる動物」だと言われています。カナダの世界遺産、ウッドバッファロー国立公園にはビーバーが作った、なんと全長870m(世界最大)にも及ぶダムがあるくらいです。

ビーバーは毛皮や香水の原料採取のために乱獲されて生息数が激減し、その絶滅が危ぶまれ、実際に絶滅してしまった地域もあります。しかし近年の保護活動が功を奏して、生息数が増えている地域が多くあり、現在では絶滅のリスクはほとんどありません。

そんな中、ビーバーが気候変動を緩和してくれるかもしれない、という研究結果が発表されました。

Beavers can convert stream corridors to persistent carbon sinks(ビーバーは、河川回廊を永続的な炭素吸収源に変えることができる)(nature, 2026年3月18日)

イギリスのバーミンガム大学などの研究チームがスイス北部のライン川流域でビーバーの炭素固定能力を計測しました。
・ビーバーがダムをつくることで水の流れが緩やかになったり、湿地が形成される。
・水の滞留時間が長くなる分、より多くの炭素を吸収できるようになる。
・湿地植物や藻類が繁殖して炭素を吸収する。
・枯れ木などの水中堆積物がその場にとどまるため、炭素を長期間貯蔵することになる。

このような効果が確認でき、このデータを元に計算したところ、ビーバーの炭素固定能力は、スイスの年間炭素排出量の1.2%から1.8%を相殺できる潜在力を持っているそうです。

古代ペルシアが発祥のゾロアスター教では、ビーバーは恵みをもたらす神聖な存在であり、殺したり傷つけたりすることが禁じられていたと言われています。慧眼とは、このことでしょうかね。

ビーバーには、ビーバーらしく生活していてもらうだけでいい。そういう気候変動対策。いいですね。

さて、国連大学などの共催で、生物多様性に関するシンポジウムが開催されるのでご案内します。

名称: 国際生物多様性の日2026シンポジウム:「地域の一歩が、世界を動かす」 〜協働で実現する人と自然の共生〜
日時: 2026年5月28日(木)14:00〜17:00 
会場: 国連大学  
共催: 国連大学サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS)、環境省、地球環境パートナーシッププラザ(GEOC)、公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)
参加費: 無料 

主な内容:下記HPより抜粋 

開会挨拶
・石原宏高(環境大臣)ビデオメッセージ
・山口しのぶ(UNU-IAS所長)
・アストリッド・ショーメーカー(生物多様性条約事務局長)ビデオメッセージ
・武内和彦 (IGES理事長/東京大学未来ビジョン研究センター 特任教授/UNU-IAS 客員教授)
 ビデオメッセージ

○ 基調講演1「科学でつなぐ地域と世界:持続可能な未来へ向けた生物多様性保全の現在地」
橋本禅 (東京大学大学院農学生命科学研究科 教授/UNU-IAS 客員教授)

○ 基調講演2 「地域で進めるネイチャーポジティブ:企業価値と地域価値向上の両立を目指して」
藤田香(日経BP ESG フェロー兼、東北大学グリーン未来創造機構・大学院生命科学研究科 教授)

○ 情報提供
永田綾(環境省自然環境局自然環境計画課 生物多様性主流化室 室長)

○ 事例発表
・西麻衣子 (日本大学生物資源科学部国際共生学科教授/UNU-IAS客員研究員)
・横浜市
・酒井はるな(Global Youth MIDORI platform 2025スピーチコンテスト最優秀賞受賞者)
・杉山泰彦(一般社団法人ねばのもり 代表理事)
・美鳥佳介(キリンホールディングス株式会社 CSV戦略部 チーフリサーチャー)

パネルディスカッション「地域の一歩が、世界を動かす」〜協働で実現する人と自然の共生〜
モデレーター:星野智子(GEOC)
パネリスト:事例発表者5名

閉会
渡辺綱男(UNU-IAS 客員リサーチフェロー)

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