Zeke Hausfatherの2026年6月11日の分析によれば、人為的温室効果ガスによる地球温暖化は、2025年に1.37℃に達し、現在の温暖化速度は0.027℃/年とのことである。したがって2030年までにパリ協定の1.5℃目標が突破されることはほぼ確実な情勢になってきた。地球温暖化の加速による熱中症による世界の死亡率も増加し、2012年から2021年までに年間平均54万6000人に達したと報じられている。これは世界中で1分間に1人が熱中症で死亡していることになる。この6月後半からのヨーロッパの熱波は深刻である。フランスのパリで44℃、ピソスで44.3℃、ボルドーで41.1℃、ドイツのザールブリュッケンで41.3℃を記録した。
WWA(World Weather Attribution)の分析によれば、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、イングランド南部は持続的な高気圧の影響で気温が季節平均を5〜12℃上回っている。WWAはこのヨーロッパの熱波は史上最悪であり、気候変動なしには起こり得なかったと結論している。化石燃料からの温室効果ガスの排出によりヨーロッパの熱波はわずか数十年で急速に悪化した。WWAのFriederike Otto教授は「確かにこれは気候変動であり、原因は私たち自身であり、解決策は持っている。しかしその実行が十分速くない。今問われているのは、私たちがどのような未来を望むか、そしてそれを実現するために必要なことをする覚悟があるのかどうかだ」と述べている。
世界の2000を超える地方自治体は2019年を中心にこの覚悟を決めるために、気候非常事態宣言(CED)を行い、カーボンニュートラル達成の目標年を定め、気候非常事態計画を作成してきた。ところが2025年以降、CEDやネットゼロ目標年を撤回する自治体が現れている。CEDを撤回したのは、英国ではDurham, Kent, Wakefield, Staffordshire, Suffolk, Sunderland, オーストラリアのMornington PeninsulaやPort Macquarie-Hastings、カナダのCalgaryなどである。英国でCEDやネットゼロ目標の取り消しを推進しているReform UK党首のNigel Farage氏は、「CEDは政治的な美徳の誇示であり、ジェスチャー政治である。重点を置くべきはエネルギー効率の向上と生活費削減策である。」と主張している。ただし、King’s Lynn and West Norfolkでは、6月に英国を襲った猛暑のために、Reform UK議員によるCED撤回議案は延期されたと報じられている。
オーストラリアでCEDを撤回した自治体の動機は、コア・インフラへ資金投入を集中させること、シンボリックな宣言に代わって実践的で計測できる環境プロジェクトを優先すること、地方政府の気候政策の役割についての疑問などと報じられている。2026年5月28日にCEDを撤回したCalgaryでは、象徴的なジェスチャーは役に立たないので、具体的な行動を優先する、都市が恒久的な非常事態にあるのは賢明ではない、CEDは非常事態を解消するためにあらゆる手段を講じることを意味し、人々の心に恐怖心を掻き立てるなどの理由が挙げられている。
【気候非常事態行動計画の分析】
Judy BushとAndreanne Doyonは2025年5月7日に公表した論文の中で、オーストラリア、ビクトリア州の39の自治体について、CED後の行動計画を分析している。その結果、39の自治体のうち、34の自治体は宣言後に気候変動対策計画を策定していること、ほとんどの計画は緩和策と適応策に重点をおいており、排出量削減と回復力強化のための強力な目標が設定されていること、実施エコシステムの構築には地域的な連携やパートナーシップが重要であると結論している。ただし生物多様性に関する緊急事態対応の統合、先住民の知識と願望の認識や正義と公平性の考慮などについては不十分としている。
「オーストラリアの地方自治体における気候非常事態:象徴的な行為から現状打破へ?」という2022年3月9日のAnthony Greenfieldらの論文では、CEDの動機や可能性を議論している。CEDには気候科学の知見を支持するボトムアップの動員が緊急の行動の必要性を促していることは明らかで、現状維持から脱却するよう地域社会からの圧力が高まるとしている。CEDによって「通常業務アプローチ」から「変革された緊急モード」へ移行できる可能性があると考えているのである。
これに対してJosefine Henmanらの2023年5月の論文「緩慢な緊急事態だが、緊急の対応が必要か?」はスウェーデンの都市の状況について分析している。スウェーデンのLund, Malmo, Kalmarの3都市は気候非常事態を宣言する代わりに気候非常事態が存在することを声明として公表した。スウェーデンではほとんどの都市がCEDを行わないことを選択した。緊急事態(emergency)には、すでに発生した影響への対応(反応としての緊急事態)と将来起こり得る影響を回避するための対応(戦略としての緊急事態)の二つがある。現在は「戦略としての緊急事態」から「反応としての緊急事態」に移りつつあるように思われる。スウェーデンでは既存の戦略とプロセスが、想定される気候非常事態行動計画の内容に対応しており、それらに焦点を当てる方がアプローチを変更するより効率的と判断しているのである。ただしCEDには政治的な意味がある。自治体の政治的権威を高め、気候変動対策の強化のための社会的動員の勢いを生み出すことができるからである。
【日本の気候非常事態宣言をした自治体は何をしているか】
2026年6月現在、日本の自治体でCEDやネットゼロ目標を撤回した自治体があるとは報道されていない。逆に2026年5月15日には東京都港区が気候非常事態宣言をしている。また政府の脱炭素先行地域に選定されたCED自治体は23に達する。これはCED後に早期にカーボンニュートラル達成を目指す意欲の表れであろう。
気候非常事態宣言をした自治体で脱炭素先行地域に選定された都市
2026年6月現在
[北海道ブロック]札幌市
[東北]宮古市、東松島市、陸前高田市、岩手県、飯豊町
[関東]さいたま市、千葉市、多摩市、横浜市、川崎市
[中部]松本市、上田市、小諸市
[近畿]京都市、堺市、大阪市、尼崎市、米原市
[中国・四国]鳥取県
[九州]北九州市、五島市、知名町
〈選定の要件〉
1. 2030年までに民生部門の電力消費に伴うCO2排出の実質ゼロを実現
2. 再エネ設備の最大限導入
3. 脱炭素の取り組みに伴う地域課題の解決や住民の暮らしの質の向上
4. 脱炭素先行地域の範囲・規模の特定
5. 計画の実現可能性
6. 取組の進捗管理の実施方針及び体制 など
脱炭素先行地域には選定されていないが、独自にネットゼロ目標に向けて先進的な取り組みをしているCED自治体もある。長野県、壱岐市、北海道ニセコ町などである。CEDを政治的な美徳の誇示、ジェスチャー、偽善としないためにも地方自治体や中央政府には一層の努力が求められる。言うまでもなく気候危機に直面している国民こそが実効性のある政策を立案実施するよう地方自治体や中央政府を動かさなければならないのである。
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