9月16日のニュースレターに山本先生の記事、「気候についてはサフィシェンシー(充足性)回廊の上限も下限も破られてしまう」を掲載しました。その中で触れられていたUNEP(United Nations Environment Programme, 国連環境計画)の報告書の一部を抜粋してみます。
“Limiting Overshoot – Navigating exceedance of 1.5℃ and pathways towards return” (超過の抑制-1.5℃超過への対処と目標値への回帰に向けた道筋)(UNEP、2026年9月2日)
この報告書は、地球温暖化がパリ協定の目標である1.5度を一時的に超過(overshoot)する事態が不可避となっている現状を分析し、その危機的な影響と対策を包括的に論じています。深刻な環境・社会的リスクを避けるため、温室効果ガスの即時かつ大幅な削減を通じて温暖化のピークを低く抑え、世紀末までに気温を再び1.5度以下に引き下げるまでの「超過・ピーク・低下」経路(overshoot, peak and decline pathway)の実現が不可欠。また、緩和策と適応策を同時に推進することが重要で、公平性と気候正義を基盤とした強力な国際協力とガバナンス改革が必要であると結論付けています。
139ページもある報告書なので、全てを読むのは大変ですが、一部(p.20-21)を抜き出して読みやすく和訳し、少し手を加えてみました。地球温暖化を逆転させることの難しさについて触れています。p.21にある図1.3(Figure 1.3)を先に見ておくと内容をイメージしやすいです。超過(overshoot)部分をExceedance(超過上昇期)、 Plateau(停滞期)、 Decline(低下期)に分けていて、下降期のあとにStabilization(安定期)が示されています。
○ ここから抜粋
【地球温暖化の逆転は、遅く困難なプロセスとなるだろう】
およそ220 GtCO2の累積ネットネガティブ排出量が、世界の気温を約0.1°C下げるために必要とされる(UNEP 2025b)。その結果、大気中から持続可能な速度でCO2を除去できるかどうかが、達成可能なネットネガティブCO2排出量を決定する重要な要因となり、ひいてはそれが気温低下のペースを左右することになる(第3章参照)。
たとえネットネガティブCO2排出量が年間10 GtCO2(現在のCO2排出量の約4分の1)に達するシナリオにおいても、温暖化は10年あたり約0.05°Cしか逆転しない可能性がある(Rogelj et al. 2019)。言い換えれば、現在の10年あたり約0.25°Cというペースで進行する地球温暖化(Forster et al. 2026)を逆転させるには、楽観的なCDR(二酸化炭素除去)の前提を置いたとしても、約50年かかる可能性がある。
現在の展開は依然としてこれらの水準を大きく下回っており、過去1年間において、持続可能な土地利用型CDRは年間約2 GtCO2にとどまり、一方、技術を用いて炭素の回収・貯留を行う新規のCDR手法では、そのわずか千分の一程度の除去量しかなかった(Smith et al. 2024)。
【1.5°C未満への回帰は非常に不確実である】
地球温暖化の逆転を達成する上でのこうしたさまざまな課題から、現在の超過に関する議論においては、不確実性や潜在的に楽観的な前提が存在することが科学的文献によって指摘されている(Schleussner et al. 2024)。
CDRの規模拡大における課題に加え、ネットネガティブ排出量は、中央値の予測が示唆するほど地球温暖化の逆転に効果的ではない可能性がある。本節でこれまでに示された数値は、排出と除去に対する気候の対称的な応答を仮定しているが、この仮定は、より温暖化し影響を受けた世界においては成り立たない可能性がある。
ネットゼロCO2排出に達した際には温暖化が安定すると予想されているものの(IPCC 2021)、特定の地球システムフィードバックに起因するさらなる温暖化は排除できない(Palazzo Corner et al. 2023)。
また、CO2除去による冷却効果が、同等のCO2排出によって引き起こされた温暖化に見合うものであるかどうかも不確実であり、初期の研究ではそれより小さい可能性が示唆されている一方(Zickfeld et al. 2021)、最近の予備的知見ではそれを上回る可能性も示されている(Chimuka and Zickfeld 2026)。
【排出削減が最優先事項である】
上記の不確実性は、温暖化の安定化と逆転をますます多くのCDRに依存させる場合、「超過・ピーク・低下」経路を達成する課題を増大させる可能性がある。
例えばもし気候変動への応答が予測よりも高め(上位75パーセンタイル程度)だった場合、同じ排出シナリオにおいて中位の予測値と同じ気温変化の結果を出すためには、さらに数百ギガトンの正味の二酸化炭素除去(CDR)が必要になる可能性がある(Schleussner et al. 2024)。
持続可能な年間二酸化炭素除去(CDR)の展開量には限界がある(Deprez et al. 2024)ため、年間の展開ペースを上げてもこの不足分は補われず、むしろ結果として温度超過の期間が長期化する可能性が高い。
したがって、慎重な対応として、潜在的な悪影響を予測し(Ganti et al. 2025)、責任ある方法で展開されるCDRの必要な規模とポートフォリオを明確にし、気候への悪影響を最小限に抑えるために、「削減困難な」排出の抑制を含めた短期的な急ピッチの排出削減を優先すべきである。
1世紀未満という期間の内に温暖化の逆転を確実に実現可能にするには、超過の規模を抑えることは極めて重要である。
【結論:引き返しは可能であるが、不確実で複雑である】
超過後の地球温暖化の逆転は可能であるものの、長期間にわたる持続的なネットネガティブCO2排出が必要となる。その効果は、地球システムの応答だけでなく、ガバナンス能力、制度的調整、および大規模なCDR展開を形作る現実的な条件にも左右され続ける。したがって、気温逆転のペースは依然として不確実であり、制約を受けている。
最も効果的なリスク管理戦略は、短期的に排出を急速に削減し、できるだけ早期にネットゼロへと前進することであり、それによってピーク時の温暖化と超過期間を制限することである。また、積極的な適応も同様に不可欠であり、それは被害を軽減するためだけでなく、超過に伴って増大する圧力の下で緩和努力を継続する能力を維持するためでもある。
○抜粋はここまで
この報告書のほんの一部だけなのに、これでもかというくらい暗い見通しが書かれていて、重苦しい感じがしてしまいます。ある意味、全部を読まない方がいい類の報告書かもしれませんね。が、こんな時にこそ「これはもう、伸び代しかないやろ!」という言葉を思い出して、できることを積み上げていきたいところですね。
さて、国立環境研究所の一般公開で楽しく学べそうなイベントが開催されるのでご案内します。
名称: はっけん!ぼうけん!こっかんけん! 国立環境研究所 一般公開2026
日時: 2026年10月25日(日)9:30~15:00
会場: 国立環境研究所(つくば市)
主催: 国立環境研究所
参加費: 無料
主な内容:下記HPより抜粋
・普段は見ることのできない研究現場や実験装置を大公開!
・空気中のPM2.5の測定体験や生き物観察など、科学体験を通じて味わう「実感」と「発見」
・環境問題や地球のこと、最新の研究などを紹介する展示コーナー
・研究者と話そう!直接対話で研究への思いやここだけの話を聞けるチャンス!
・気候変動について学べるクイズコーナー
・「はっけん!ぼうけん!スタンプラリー」で国環研を探検(プレゼントあり)
「マーシー×WoWキツネザル×国環研、コラボ
YouTuberと一緒に考えよう!生物多様性トークショー」
さらに今回は、生き物系YouTuberマーシーさん、環境系エンターテイナーWoWキツネザルさん、国立環境研究所 五箇公一の3名によるトークイベントを開催。
生物多様性、そして環境問題について語り合います。
見どころはたくさんありますので、詳しくはこちらをご覧ください。
