巨大な”怠け者” すぐには冷めてくれない

10月13日、オーストラリアのメルボルン大学などの研究チームが海洋の熱慣性に関する論文を発表しました。

Ocean thermal inertia sustains a tropical Pacific mean state shift under net zero
(海洋の熱慣性は、ネットゼロ下で熱帯太平洋の平均状態変化を持続させる)(2026年10月13日、nature)

熱帯太平洋は地球全体の気候への影響が大きく、特にエルニーニョ・南方振動(ENSO)現象は広範囲の気候に影響を与えます。しかし、温室効果ガスの排出量の少ない経路、特にネットゼロを達成する場合に熱帯太平洋がどのように応答するか、これまで十分に解明されていませんでした。

今回の研究では温室効果ガス全般についてではなく、CO2の排出量のネットゼロの影響についてシミュレーションを行い、主にこんなことが分かりました。(エアロゾルやCO2以外の温室効果ガスは、産業革命前の水準に戻して固定してシミュレーションを行っています)

・CO2の排出が続き、気候が温暖化する段階では、熱帯太平洋の平均状態は、エルニーニョ現象に似た状態へと変化する。

・CO2のネット排出が止まった後も、その変化はすぐには元に戻らない。 南極海(南極の周りを 囲む南緯60度以南の海域)と深海の温暖化が継続するため、エルニーニョ現象に似た平均状態が数百年にわたって維持される。

・その結果、エルニーニョ現象型の降水の偏りが長期にわたり続き、極端なエルニーニョ現象の発生頻度も高い状態に保たれる。これは大気中のCO2濃度が低下している間も起こる。

・したがって、少しでも早くネットゼロを達成することが不可欠。

エルニーニョ現象に似た状態が、なんと「数百年」も続くという見通しです。先週見たUNEPの報告書”Limiting Overshoot”で「温暖化の逆転は可能だが不確実で複雑である」となっているのを知って「た、たまらんな…」と思ったのに、こんどは「数百年は続く」です。

海洋の熱慣性。これまではその怠け者的な(inertia)、いえ、どっしり構えて動じないその性質に助けられてきた私たちですが、どうやらそこに甘えて熱を溜め込ませ過ぎてしまっていたようです。冷ましたくてもすぐには冷めてくれません…。

ただ、こうした研究ではシミュレーション設定や研究の限界などもあって、さらなる研究によって異なる結論が出ることもあるでしょうから、また注目していきたいですね。

さて、日本気象協会の主催で洋上風力発電に関する講演会が開催されるのでご案内します。

名称: 日本鳥学会2026年度大会 企画集会講演「洋上風力発電の環境影響評価における鳥類調査手法」
日時: 2026年11月3日(火)(詳細は後日HPで発表) 
会場: 名古屋大学/オンライン 
主催: 一般財団法人 日本気象協会
参加費: 無料 

主な内容:下記HPより抜粋 

我が国における洋上風力発電事業は、欧州等と比較して歴史が浅い。海鳥類は、洋上風力発電所の設置により、バードストライク、移動経路の遮断等による障壁効果、生息地の喪失などの影響を受けるとされているが、国内ではこれらの影響を科学的に評価できる調査手法や評価手法が明確に示されていない。そのため、本勉強会は、2025年度鳥学会大会で自由集会、ウェブでの勉強会、2026年3月にシンポジウムを開催し、信頼性・汎用性が高い技術について議論してきた。

そのとりまとめとして、本企画集会では、洋上風力発電に伴う鳥類への影響を把握するための各調査手法の精度、信頼性、適用可能な時空間スケール、限界や制約条件などを明確にしたうえで評価し、洋上風力発電の導入にあたっての3つのフェーズ((1)候補地選定やゾーニングを目的とした広域的な基礎調査、(2)建設予定地における環境影響評価(事前調査)、(3)建設中及び稼働後に実施されるモニタリング(事後調査))ごとに適した調査手法について議論する。

○ 趣旨説明
板谷浩男(日本気象協会)

「勉強会がめざす洋上風力発電の鳥類に対する影響評価」
風間健太郎(早稲田大学)

「船舶調査・コロニー調査・GPS調査の精度、時空間スケールと制約」
西澤文吾(水産資源研究所)

「レーダー・カメラ調査の精度、時空間スケールと制約」
藤井直紀(日本気象協会)

「航空機調査の精度、時空間スケールと制約」
倉部鈴美(日本気象協会)

「洋上を利用する海鳥を対象とした環境影響評価を実施する際の提言」
萩原陽二郎(いであ)・板谷浩男(日本気象協会)

「各フェーズでの実行可能性を考慮した手法提案」
綿貫豊(北海道大学名誉教授)

○ 総合討論
コメンテーター 會田義明(環境省)

詳しくはこちらをご覧ください。