死してなお海で地球を救う 知の巨人

最近、金の国際価格が上がっただの下がっただの、話題になっています。中央アジアに、ペルシア語で「黄金の水しぶき」という意味の名がついた川があります。タジキスタンのパミール高原周縁部からウズベキスタンに流れるザラフシャン川です。どんなしぶきがあがっているのか、ちょっと見に行きたいくらいです。

ザラフシャン川の下流域周辺には荒涼とした乾燥地帯が広がっていますが、その中に際立ったコントラストで緑の広がる地域があります。川がもたらす豊富な水の恵みを受けたオアシスとして紀元前から栄えていた都市で、現在のウズベキスタンの首都、ブハラです。

世界の知識がアラブ世界に集まったと言われるイスラム黄金時代の真っ只中、10世紀終わり頃にブハラに生まれた、イブン・スィーナー(Ibn Sina)という人物がいます。哲学者にして医者、そして科学者。その生涯において著した書物は400を優に超え、その分野は天文学、化学、地理学、地質学、心理学、論理学、イスラム神学、数学、詩など多岐に渡ります。イスラム世界が生んだ最高の知識人と評され、本人がそれを喜んだかどうかは分かりませんが、「第二のアリストテレス」とも呼ばれ、その後のヨーロッパの医学や哲学に大きな影響を与えました。

彼は西洋ではAvicennaという名前で知られていますが、この名前にちなんで学名を付けられた植物がヒルギダマシ属(Avicennia)で、マングローブ植物の仲間です。

現在、炭素を吸収・固定して地球温暖化を緩和するだけでなく、生物多様性の保全にも重要な役割をもつ生態系として「ブルーカーボン生態系」が注目されていますが、アマモやコンブなどの藻場、湿地、干潟、そしてマングローブ林がその生態系の柱になっています。

海のないブハラで生まれたイブン・スィーナー。イスラム世界最高峰の知の巨人だった彼は海を見たことがあるのか。分かりません。しかし彼の名前を冠したマングローブが世界各地の海に根付き、地球の環境を救うのに大きな役割を果たしているなんて、なんだか面白いですよね。

さて、ブルーカーボン生態系に関する大きなシンポジウムが開催されますので、ご案内します。

名称: 「国際アマモ・ブルーカーボンワークショップ2023」 
日時: 2023年11月17日(金)15:00~17:50 
       11月18日(土)09:30~17:15 
       11月19日(日)09:30~16:00 
会場: 笹川平和財団ビル 国際会議場(東京都港区)/オンライン 
主催: 国際アマモ・ブルーカーボンワークショップ実行委員会
共催: 笹川平和財団海洋政策研究所、ジャパンブルーエコノミー技術研究組合、金沢八景‐東京湾アマモ場再生会議、共存の森ネットワーク、セブン-イレブン記念財団、海辺つくり研究会

参加費: 無料 

主な内容:下記HPより抜粋 

温暖化、酸性化、貧酸素化、海ゴミ、海洋資源の枯渇など多様な海洋の危機が迫る中、アマモ場を含むブルーカーボン生態系(BC生態系)は、炭素を固定することで地球温暖化の緩和効果が期待できるだけでなく、酸素の生成や底質の安定化、生息場と食料の供給を通した生物多様性保全の場として注目されています。そうしたBC生態系に関する最新の知見の共有、海辺の再生に取り組む団体の連携の強化、ブルーカーボン生態系の保全・再生の取組の加速を目指して多様な関係者を対象に国際シンポジウムを開催いたします。

本シンポジウムでは、要旨集として国内外のブルーカーボン生態系の保全・再生に向けた活動の共有を行い、これからの5-10年の喫緊の行動指針となる宣言を作成・発信し、新たなアマモ場再生ガイドラインを取りまとめることを目指します。

〇1日目 11月17日(金)
・主催者挨拶、趣旨説明、来賓紹介
・基調講演
「BC生態系の保全に関する国際的・学術的潮流」
カルロス・デュアルテ教授(キング・アブドラ科学技術大学 (KAUST) 特別教授)

「東アジア海域におけるBC事業の展開・展望」
エイミー・ゴンザレス氏(東アジア海域環境計画パートナーシップ 事務局長)

「ブルーカーボンの研究,政策,社会実装の動向」
桑江朝比呂博士(港湾空港技術研究所 沿岸環境研究領域長、ブルーエコノミー技術研究組合 理事長)

「ブルーカーボンを基軸としたブルーエコノミーへの展開」
渡邉敦博士(笹川平和財団海洋政策研究所 上席研究員、ブルーエコノミー技術研究組合 理事)

・パネル討論:世界の現状と本シンポジウムに期待すること

〇2日目 11月18日(土)
・基調講演
「日本における藻場生態系のブルーカーボン定量評価の実践」
堀正和博士(国立研究開発法人 水産研究・教育機構 水産資源研究所 社会・生態系システム部 
沿岸生態系暖流域グループ長)

「日本における環境DNAを利用した生物多様性観測網ANEMONE」
近藤倫生教授(東北大学大学院生命科学研究科 教授、ANEMONE 主宰)

「地域におけるBC生態系の保全・再生」
ヤスミン・プリマベーラ博士(フィリピン国、アクラン州立大学)

「地球温暖化への生物適応(紅海を例として)」
スザーナ・アグスティ教授(キング・アブドラ科学技術大学 (KAUST) 海洋科学部教授)

・セッション1:実践の最前線1(漁業者・企業の関わり)
-漁業者・地域連携
-企業の参画
-市民の参画

・セッション2:実践の最前線2(市民・若者の関わり)
-市民・若者主導の活動展開
-海辺の自然再生高校生サミットより

・セッション3:実践の最前線3(科学コミュニケーション)
-科学コミュニケーションにおける情報伝達

〇3日目 11月19日(日)
・基調講演
「沿岸生態系の保全戦略」
灘岡和夫博士(鹿島建設技術研究所顧問、COAST Card日本チーム代表)

「COAST Cardプロジェクトの概要(持続可能な沿岸域の構築に向けた社会変革)」
ウィリアム・デニソン教授(メリーランド大学環境科学研究センター センター長、
COAST Card国際コンソーシアム代表)

・セッション4:実践の最前線4(各国での実践) 
-社会変革のための多様な関係者の参画

・ワークショップ:世界との対話『社会変革を目指して』
講演者、参加者がグループ毎に円卓に集まり、参加型のゲームやテーマ別の議論を行います。

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