今年のエルニーニョは、”スーパー・エルニーニョ”になるとか”ゴジラ・エルニーニョ”になるとか言われています。今年6月の世界の平均海面温度が20.86℃で過去最高を更新しましたから、よけいに「ゴジラ襲来」感が強まっています。
7月3日に世界気象機関(WMO)が、エルニーニョ現象が発生したと発表しました。7月から9月に急速に拡大して、強い(strong)エルニーニョ現象が発生すると予測されています。
El Nino is forecast to intensify, increasing likelihood of extreme weather(エルニーニョ 今後強まる予測 異常気象発生の可能性高まる) (WMO、2026年7月3日)
でも、このニュースを聞いた時に、「あれ?エルニーニョ現象の発生って、少し前にも聞いたような気がするけど、あれは違ったのかな?」と思ったので確認して見ました。
【発生宣言の基準の違い】
日本の気象庁は6月10日に、アメリカのNOAA(アメリカ海洋大気庁)は6月11日にその発生を発表していました。一方、この現象の影響を大きく受けるペルーでは、2月13日にはすでにペルー沿岸部における”沿岸性エルニーニョ”の警戒警報を出していて、6月8日にはその強度が”中程度”のフェーズに入ったことを発表、7月2日には豪雨の脅威に対処するために国土の4割に相当する796地域で60日間の非常事態宣言を発令しました。国によって受ける影響やその時期・程度が異なるため、エルニーニョ現象を監視する海域や「発生」を判断する基準は同じではないんですね。
たとえば日本の気象庁は、東部太平洋のNINO.3という海域を監視海域にしています。そしてその海域の海面水温の「基準値」(過去30年の各月の平均値)との差の「5ヶ月移動平均値」が6ヶ月以上続けて+0.5℃以上になったらエルニーニョ現象の発生を宣言します。一方、アメリカは中部〜東部太平洋のNINO.3.4を監視海域とし、海面水温の3ヶ月平均が基準値より0.5℃以上を超え、その状態が5ヶ月続くことが条件です。ペルーでは、NINO.3よりも東にあってペルーの海岸に最も近いNINO.1+2という海域を重視して”沿岸性エルニーニョ”の動向を測っていますが、それだけでは沿岸の漁場や天候への影響を正確に捉えきれないため、他にも”チカマ沿岸水温指標”や”沿岸エルニーニョ指数”というペルー独自の指標も予報・防災に利用しています。
このあたりのことを確認していたら、ついでに分かった事がありました。「ついでに分かった」なんて言ってはいけないくらい、なかなか大切なポイントだと思うので、こちらに書きます。
【ONIからRONIへ】
従来、エルニーニョ現象の強度を測る指数としてきたONI(海洋ニーニョ指数,Oceanic Nino Index)は、監視海域の水温変化だけに着目して「この海域が過去と比べてどれだけ変化したか」を見ていました。ところが、温暖化が進んで地球全体の海水面温度が上昇しているため、監視海域で起きている温度変化が「その海域特有の変化なのか、それとも地球全体の変化なのか」「他の海域との温度差がどの程度あるのか」がONIでは分かりません。そもそも”この海域とそれ以外の熱帯海域との温度差”が駆動力になって発生するエルニーニョ現象の強度を捉える指標としては欠点があることが分かってきました。
そこでNOAAでは今年2月1日、指数をONIからRONI(相対的海洋ニーニョ指数, Relative Oceanic Nino Index)に切り替えました。
Climate variability: Relative Oceanic Nino Index(気候変動性:相対的海洋ニーニョ指数)(Climate.us、 2026年6月11日)
ONI(監視海域における過去との温度差)を算出し、そこから”熱帯海域(北緯20度〜南緯20度)全体での過去との温度差”を差し引いて、さらに調整してRONIを出します。こうすることで指数に「監視海域における温度差」も「監視海域とその他の熱帯海域との温度差」も反映されることになり、温度変化を捉える精度が向上しました。
判断基準になっている指数をアップデートするというのも大切なことですよね。
【温暖化の進行とエルニーニョの関係】
ところで、エルニーニョ現象そのものは人為的な温暖化とは関係なく発生する自然現象です。では、温暖化はエルニーニョ現象にどんな影響を及ぼすのでしょうか?どうもこのあたりは未解明の部分が多く、まだまだ議論の余地と不確実性が残っているようです。そんな中、国立環境研究所の研究チームが4月7日にnatureで論文を公表しました。
地球温暖化の進行によってエルニーニョ・南方振動はどう変わる?(国立環境研究所、2026年6月8日)
この研究では、
「温暖化が比較的緩やかな場合にはENSO(エルニーニョ・南方振動)が強まる」
「一方、温暖化が非常に進行すると現象は弱まり、発生周期が短くなる」
ということが分かりました。えっ!? 温暖化が非常に進行すると、現象は”弱まる”?….これは意外でした。「温暖化が進むにつれてエルニーニョはますます激しくなっていき、終いにはとんでもない破壊力を持つようになるのでは…」なんてイメージを勝手に描いていましたから…。気候の動きとは不思議なものですね。詳しくは上記の記事をご覧いただければと思います。
さて、国立環境研究所の主催で環境研究に関する公開シンポジウムが開催されるのでご案内します。
名称: 国立環境研究所 公開シンポジウム2026
日時: 2026年7月20日(月)13:00〜16:30
会場: つくば国際会議場(つくば市)
主催: 国立環境研究所
参加費: 無料
主な内容:下記HPより抜粋
国立環境研究所は、環境に関するさまざまな研究成果を広く社会にお伝えするため、1998年6月から毎年「公開シンポジウム」を開催しています。
今回のテーマは、「聴いてわかる環境研究の今、知ってかわる私たちの未来」。気候変動が部活動に与える影響、首都圏でのCO2観測、PFASの分析法、水の安全性など、社会的な関心の高い課題に対し、最前線で活躍する国環研の研究者たちが、その研究活動をわかりやすくご紹介します。
開会挨拶 理事長 大島 義人
講演1 大山 剛弘 「将来の暑さが学校活動やスポーツに与える影響とその備え」
講演2 大山 博史 「首都圏におけるCO2濃度観測によるCO2排出量の逆推定」
講演3 松神 秀徳 「PFAS(ピーファス)の“ごみ”に立ち向かう」
講演4 浅見 真理 「水の安全をまもる−水源の環境と水をきれいにする技術!」
パネルディスカッション
閉会挨拶 理事 三枝 信子
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