“World scientists’ warning to humanity: a third notice” William J. Rippleらによる論文原稿が公開され賛同者の署名集めが行われている。筆者は早速署名した。ここではその内容及び公表される背景について紹介したい。世界の科学者による人類への警告は1992年、2017年に続いて今度で3度目である。2017年の論文の筆頭著者は今回と同じくオレゴン州立大学のWilliam J. Ripple教授である。10年前と比較して今日の地球環境や国際情勢は何が変わったであろうか。
まず急速な温暖化の進行である。今年の5月後半から7月にかけてのヨーロッパの熱波はすさまじいものであった。7月22日にイタリアのシチリア島では最高気温46.5℃を記録した。フランスやスペインにおける森林火災も甚大な被害をもたらした。この間、3万人以上が熱中症で死亡したと報じられている。
10年前には人為起源温室効果ガスによる地球温暖化は10年あたり0.20℃だったものが、現在は0.35℃に増加している。2024年の世界の平均気温はWMOによれば産業革命前と比べて1.55℃高く観測史上最高を記録した。さらに2027年の世界の平均気温は強力なエルニーニョ現象により1.70℃高くなると予想されている。
2025年の気候転換点国際会議で熱帯サンゴ礁の枯死の転換点が突破されたと科学者によって判定された。また気候変動により3500種以上の動物が、3.5万種から5万種の植物種が絶滅の危機に瀕している。毎年55万人もの人々が熱中症で死亡している。最近の熱波は人為起源の温室効果ガスの大量放出が無ければ起こり得なかったと考えられている。55万人の熱中症死亡者の大半は地球温暖化によって亡くなったのである。2025年の世界の温室効果ガス排出量はCO2換算で422億トンである。
これらの問題の解決には緊密な国際協調が不可欠であるのに、現在は逆に地政学的な紛争が激化して戦争が起きて多国間協力が弱体化している。そこで今回の第三の警告では、人類は惑星的非常事態(Planetary Emergency)のただなかを生きているということと、その原因は人類が地球の再生能力を超えて資源を消費し、廃棄物を出し続けている生態学的オーバーシュート(Ecological Overshoot)にあることが強調されている。その解決のためには科学的知見と共に先住民や伝統の知識体系も重要であると述べている。「科学者の警告」が社会に受容されるためには、科学や科学者への社会の信頼を高めるための科学者側の努力も必要であろう。最近の科学への攻撃などにより、科学的権威の衰退が懸念される。しかし科学なしには現在の苦境を突破することは不可能である。
山本良一(東京大学名誉教授、CEN名誉会長)
