空気中のCO2の回収技術 DAC

最先端の技術なのに、なぜか「あれ、これどこかで見たことがある気がする…」と思うことがあります。伝統的技術も先進技術も、自然界の摂理をうまく利用しながら発展してきたことの現れでしょうか…。

空気中の二酸化炭素を直接取り込んで固定化する、ダイレクト・エア・キャプチャー(Direct Air Capture, DAC)という技術が注目されています。DACのプラントを開発・製造しているクライムワークス社(スイス)が建てた実際のプラントの写真を初めて見たときに、つい「刺し網漁」を連想してしまいました。魚の通り道を横断するように網を張って、そこに突っ込んで頭が刺さって抜けなくなった魚を獲るという、あの刺し網漁です。そこを通過するCO2を捕まえるのですから、考え方は同じ(?)ですよね。

国際再生可能エネルギー機関(IRENA)のリポート(2020年)によると、今後、気候変動に対して有効な対策を行わなかったら2050年には年間465億トンのCO2が排出されるようになるそうです。そして、2050年には総排出量の6%にあたる30億トンをCCUS(二酸化炭素回収・有効利用・貯留)技術を使って処理しなければならないとされています。

すでに実用化されつつあるDACプラントの動画を、二つ紹介します。

●Climeworks AG(スイス)/ Carbfix(アイスランド)

世界最大、初めて商用化された大規模DACプラント「Orca」(アイスランド)。ファンで取り込んだ空気が、装置内部の特殊フィルターを通過。そのときにCO2がフィルターに付着。付着分が一定量に達したら装置内部を加熱して、高濃度のCO2を回収するという仕組みです。年間最大4,000トンのCO2を回収。CO2は温室に供給して肥料として利用したり、炭酸水に使ったり、水に溶かして地下800〜1,000メートルの玄武岩層に流し込んで固定・貯蔵します。稼働に必要な電力は地熱発電所から供給されます。

●Carbon Engineering Ltd.(カナダ)

空気中のCO2を回収し、地中に埋め込んだり、クリーンな航空燃料を生産したりする施設。2021年9月現在、年間100万トンのCO2を回収するプラントをアメリカに建設中。その吸収量は4,000万本の木に相当するそうです。

DAC技術は高いコストが課題であるようですが、回収したCO2に高い付加価値をつけて販売するなどしてコスト削減が進めば、さらに拡大していく可能性を秘めています。ただ、大規模な設備が必要であったり、さまざまな立地条件を満たした場所でなければいけないなどの課題もあります。

さらに注目される技術が日本で芽吹いています。2020年、九州大学カーボンニュートラル・エネルギー研究所と株式会社ナノメンブレンとの共同研究によって、分離膜を使ったCO2の回収技術の可能性が見えてきました。

「分離膜を用いた大気からのCO2回収」

世界中でCO2の「大漁節」が聞こえてくる、そんな日が早く来るのを期待しています。